国会閉会中の夏を中心に衆参両院の議員による海外視察が本格化している。2023年度からコロナ禍前の規模に戻り、2024年度は衆院で約100人、参院で約60人に渡航の計画がある。自民党女性局のフランス研修が批判を集めたのを機に情報公開は進みつつあるものの、経費の実態は明確でなく、多額の公費支出に見合った成果があるかどうか判然としない状態が続いている。(大野暢子)

◆円安で「旅費上限引き上げ」も

 衆院の旅費上限は1議員当たり214万円。上限は円安を考慮して2023年度から18万円引き上げられ、2024年度は22班が渡航予定で計約2億2800万円を見込む。参院は14班が渡航を控え、1議員の旅費上限は260万円。平年並みだと8000万円程度となる。

2023年7月、エッフェル塔をバックに塔のポーズで記念撮影した松川るい氏(中)ら=同氏のXへの投稿から

 コロナ禍などの非常時を除いて毎年行われてきた海外視察で、参院は日程や面会相手などをまとめた報告書をホームページ(HP)で公開してきた。一方、衆院は2023年度まで「要人面会の情報は機微に触れる」として、原則は国会での閲覧しか認めてこなかった。

◆報告書をHP掲載することになったが

 だが昨年夏、自民の研修でフランス・パリを訪れた松川るい女性局長(当時)らがエッフェル塔前でポーズをとる写真を交流サイト(SNS)に載せたことに世論が反発。「国民の目」を意識してか、衆院も24年度から報告書をHPに掲載することになった。  費用面では、決算で公表されるのは国内外の旅費の総額のみで、班ごとの旅費は不明。旅費とは別の土産代などの経費も決算には掲載されない。掲載範囲の拡大には与野党合意が必要だが「かえって議論を呼ぶ」(野党議員)と及び腰だ。

◆「視察の成果」審議の義務なし

 主に国会の職員が作成する報告書の議長への提出をもって視察は完了とみなされ、議員には視察に関する審議を行う義務はない。視察の成果は「個々の議員の活動に生かされる」(衆院事務局)とするが、実際の立法作業に反映されているかは見えにくい。  「全国市民オンブズマン連絡会議」事務局長の新海聡弁護士は、「公務なら支出明細の公開は当然。視察に基づく有益な審議も必須とすべきだ」と訴える。  社会構想大学院大の北島純教授(政治過程論)は「成果や支出の開示義務がないことが緊張感を奪っている。国民感覚からかけ離れた運用は、政治不信を高める」と指摘する。

 衆参両院の海外視察 議員外交や調査研究を目的に行われ、議院運営委員会での事前了承が必要。ホテル代や日当額は旅費法で都市別・議員の立場別に定められている。ホテル代は定額が給付され、規定を超えたら議員が負担する。現地での移動や通訳、土産、要人との懇親会の費用は別途経費として認められる。

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◆要人らへの「おみやげ」230万円

 衆院事務局が規程で定める情報公開手続きに基づいて、本紙が入手した2023年度の海外視察の経費精算書によると、要人らへの土産代やその運搬費として約230万円が支出されていた。  最も多かったのは、ドイツを訪れた日独友好議員連盟(会長・遠藤利明前自民党総務会長)だった。東京都内の漆器店で写真立て(1万1880円)を25個購入するなど、計35万6950円を使った。  次いで多かったのは、イタリアなど4カ国を訪れた与野党国会対策委員会の23万9811円。高木毅自民党国対委員長(当時)の地元・福井県小浜市の老舗箸店から1万9283円の箸2膳、1万1055円の箸9膳などを購入した。視察全体では、飾り皿や扇子、水晶、金箔(きんぱく)を施したボールペンなど伝統工芸品が目立ち、多くの単価は数千円〜1万円台だった。

◆懇親会参加者の氏名は黒塗り

 また、現地での懇親会費として計4班が総額87万4765円を支出していた。  衆院事務局は取材に「外交儀礼上、必要な経費だ」(国際部)と説明。ただ、総額や内訳は非公表で、公費支出が適切かどうか判断できない。唯一の手段は情報公開手続きだが、今回の例では開示まで約5カ月かかったほか、土産を贈った相手や懇親会の参加者の氏名は一部を除き、黒塗りだった。 

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