自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、党が処分した議員のリストに、岸田文雄首相や二階俊博元幹事長らの名前はなかった。公平さに欠ける内容に党内外から不満が噴出。共同通信社が13〜15日に実施した全国電話世論調査でも、首相が処分されなかったことに「納得できない」と答えた人が78.4%に上った。こうした状況を首相の元側近はどう見ているのか。岸田派(宏池会)に所属していた三ツ矢憲生元衆院議員(73)が直言した。(坂田奈央)

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

 三ツ矢憲生(みつや・のりお) 1950年、三重県伊勢市生まれ。東大教養学部卒業後、75年に旧運輸省(現国土交通省)入省。2003年衆院選に自民党の藤波孝生元官房長官の地盤を継いで旧三重5区(現在の三重4区)から出馬し初当選。21年まで6期務めた。2期目から岸田文雄首相が最後の会長を務めた「宏池会」に所属。財務政務官、外務副大臣、自民党政調会長代理などを歴任。

◆自身にも処分を科すべきだった

 ―岸田首相は自身を処分しなかった。  「おかしいと思います。裏金事件は安倍派と二階派だけの問題、というような、私から見れば人ごとみたいになってしまっている。岸田派も不記載のお金が3000万円以上あって、その後訂正しましたけれども、あれは変ですよね。おまけに元会計責任者は立件されてしまった。本人(岸田首相)が会長を務めていた時ですから、全く関係ないわけじゃない。なぜ記載していなかったのかという疑問に対して、『事務的なミスです』としか説明しない。事務的なミスで3000万円って、ちょっと正直言って常識的にはあんまり考えられないと思うんです」  ―岸田派会長だった立場としての責任もあると。  「私はあると思います。本来なら、自らにも処分を科すべきで、例えば短期間でもいいから、総裁を辞めるというべきだった。党の役職は停止しても首相を続けることは可能ですから。そうしたことも全くしないで人ごとみたいに終わらせてしまっている。トップは何のためにいるかということです。これは別に政治の世界だけじゃなくて、企業だって役所だって、トップはやはり何かあった時に責任を取るためにいるんですよ。それがトップの仕事だし、トップの最終的な役割はそこにあるんだと私は思うんです。潔さとか覚悟が感じられないのは残念です」

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

◆なぜあんなことを?真相が究明されていない

 ―長く見てきた立場から、首相が自身を処分しなかったのは想定内だったか。  「想定内でもありました。そういう人なんですよ。本当に自分のことではなく人ごとだと思っているのではないでしょうか。でも、これは党全体の問題ですよね。選挙のあり方とか組織として関わってくる話だし、その親分なわけですから。今回こういうことがあっても知らん顔をしてるというのは、ちょっと私はふに落ちない。おそらく国民の皆さんもそう思ってるんじゃないでしょうか。党内でも、今回のことでますます人心が離れたんじゃないですか」  ―他の議員への処分内容をどう見るか。  「安倍派や二階派の一部の人にああいう処分をしましたが、それが実質的な処分になってるのかどうか、というのも問題です。離党勧告や党員資格停止は、ひょっとしてその間に選挙があれば、彼らも自民党で(公認を得て)出られないわけですから。だから何というか実害はあるんでしょうが、それ以外の役職停止とか、ほとんど影響がない。本当にどれだけの意味があるのかっていうことが一つあります」  「そして、肝心の真相が究明されてないわけです。そもそもなんであんなことやったのかと。誰がやったかは別にして、なぜあんなことしたのか。裏金という格好でキックバックしたということは、使い方を表に出せないお金ですよ。そしてそのお金を何に使ったのか。キックバックを受け取っていた人の中には『いやいや、使ってません』『金庫の中に入れてありました』『自分の口座に入れてありました』っていう人もいるけど、私に言わせれば、そんなもの言い訳にも何もならない。いわゆるたんす預金みたいなもので、脱税してるってことですよ」

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

◆普通の選挙は表の金でやれるはずだが…

 ―裏金が何に使われていたかが問題だと。  「そこが一番肝なんです。これはおそらく、地方の議員も含めて自民党という組織の、特に選挙の時の対処というか、そこに関わってくる話じゃないかなと私は思ってるんです。『私腹を肥やした』『自分のポケットに入れちゃった』という人もいるかもしれないが、それはもっと悪い。選挙の年に裏金が多かったことが明らかになったが、具体的にどういう使い方をしたのかを明確にした方がいい。普通の選挙はすべて表の金でやれるはず。それができないようなことをやるから、ああいう格好(還流)でやったんじゃないかと。いわゆる(マネー)ロンダリングをやったということだと思うんです」  ―具体的には。  「例えば『~チルドレン』と呼ばれる議員が大量に当選した選挙が何度かありましたよね。当時首相だった小泉(純一郎)さんによる『小泉チルドレン』から始まって。この人たちはあまり苦労せずに風だけで当選しているわけです。ぽっと出てくるわけで、組織も何もない。そうなると、ポスターひとつから票集めの応援を、誰かに頼まなければいけない。頼む先は都道府県議員や市町村議員ですよね。この人たちにお願いするしかないわけですよ。彼らが持っている組織を使ってやってもらうしかないわけですから」  「そうすると、どうしてもやっぱり弱みができてしまう。その時にお礼を渡す人もいるかもしれない。あるいは、選挙時はさすがにいくらなんでも問題だからと、しばらく間を置いて、例えば、彼らの選挙の時に『陣中見舞いです』という格好で持っていくケースもあるかもしれない。これも普通は領収書は取らない。領収書を取るなら表の金でできるわけです。実際にそういう風に使ったのかどうかは全くわからない。わからないですが、そうした可能性もあるわけです」

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

 ―自身の経験からそう感じたと。  「私自身、自分の選挙で一番強く思ったのは、自分の組織を作らなければダメだということです。だからミニ集会を何度も開いたりして後援会づくりに力をいれました。県議や市議に頼らなくても、自分の後援会の人たちが、一生懸命ポスターを貼ったり、集会で人集めをしてくれたり、動いてくれるんですよね。組織をつくるのは大変だし、ふらふらになりましたけれども、1回できれば、選挙の時にその人たちが動いてくれるわけです。野党に転落した時の当選も、それが最終的に効いたんだと思っています」

◆政治資金規正法の罰則強化が必要

 ―政治への信頼を回復するためにやるべきことは。  「これからやるんでしょうけど政治改革でしょうね。政治資金規正法の改正とかね。だけど、私に言わせれば政治資金規正法も守っていないだけの話なんです。だから罰則を強化することは考えた方がいいと思います。後になって、収支報告書を訂正したから無罪放免で済ませるというのはいかがなものでしょうか。ただよく言われている連座制は慎重にやった方がいいと思います。なぜかというと、秘書が勝手にやる場合が実際にあるわけです。そういう時に議員も責任とって辞職しなさいというのはいくらなんでも…。だから中身をよく調べないといけない。例えば重い過料を科すとかね。そういうのは考えた方がいいかもしれないですね」
 ―企業・団体献金の全廃は。  「私は全廃はいかがなものかと思いますが、金額面で制限するというのはあると思います。特に、議員がある特定の団体や企業からたくさんお金をもらっているケースは問題ですよね。企業も同様だが、特定の団体からものすごくお金をもらうと、やはりそこの言うことを聞いてしまう。政治ってそれでいいのかという話です。日本の民主主義って『金で買ってる民主主義』になってしまいますよ。こんなことで本当にいいのかなっていう気がしますよね」  ―派閥の解消で政治は良くなるのか。  「またどうせ、人は集まるでしょう。だって議院内閣制ですよ。総裁選に出ようと思ったら最低でも20人の推薦者が必要なのにどうやって集めるんですか、と。それこそ派閥じゃなくて勉強会だとか政策研究会だとか、名前はいろいろあるかもしれないけど、結局、派閥と何も変わらない組織ができると思います。ただお金の面で、今度は派閥でのパーティーは禁止だと言っているので、そこが違ってくるかもしれない。ただ、そうすると何が起こるか。今度は個人で集金力のある人のところに人が集まる、ことになってしまう。しかも総裁選って、公職選挙法の適用外ですから。いろんなロンダリングの方法を考えるかもしれない」

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

◆ルールを守らなければ国民はついてこない

 ―改革のハードルは高い。抜け穴がどうしてもできそうだ。  「完璧なものはないと思いますよ。新たなルールをつくってもまた抜け穴を考える。だって自分たちで法律作るんですよ。今までもそうでしょう。(平成の政治改革で決めた)派閥の解消だって守っていなかった。法律に限らず大臣規範も守っていない。岸田さんは首相になってから(2022年に)パーティーを7回もやって1億何千万も集めているんですから。それで『パーティーではなく勉強会だ』と言ってるわけです。詭弁(きべん)ですよね。そういうことを首相自らがやって『いや、何も悪いことはしてないんだ』みたいなことを言うかと。他の人が守るわけがないですよ。自分たちがルールを守らないで、国民に『法律を守れ』とか『税金を払え』とかね、そんなこと言えた義理かと。それでは国民もついてくるはずがないです」  ―実際に怒りの声を耳にしたか。  「確定申告の時期も重なり、国民は皆怒っていた。不記載額が500万円未満の議員が不問に付されたのも変ですよね。今からでも遅くないから税金を納めるようにするべきです。記載し直したからもういいですっていう、そんなばかな話はない。資金を公開基準の緩い後援会に移して、使い道を隠すような行為も表沙汰になった。そんなことを当や政府の幹部がやっていて、まかり通っちゃってるわけでしょ。明らかに脱法行為ですよね。みんなまねするようになるんじゃないですか。そうか、と。裏金なんかやらないでも大丈夫なんだ、と。私も一国民として怒り心頭ですよ」

◆6月解散しかタイミングがない

 ―政治改革がどうなるかは別として、岸田首相は「国民、党員が判断する」という言い方をしている。  「選挙で判断してもらうっていう意味だとしか考えられないです。他に国民に判断する材料ないですからね。僕は正直言って6月に解散するんじゃないかと思います。やると思いますよ。もう他にタイミングはない」

自民党の裏金問題について話す三ツ矢憲生元衆院議員

 ―惨敗する可能性も。  「わかりませんが、もしそうなれば(公明党のほかに)日本維新の会や国民民主党との連立もあり得るでしょうね。彼(首相)のこれまでの行動を見ていると、総理の座への執着は強いと思います。自民党は減ったけど、『他の人たちと一緒に引き続きやりますよ』という可能性はなくはないですよね」  ―28日投開票の衆院3補欠選挙も解散に影響しないか。  「もうほぼ結果はわかっていますからね。だけど裏金事件は自分の責任じゃないと思っているし、むしろ自分は米国に行って、国賓待遇で迎えられて、立派な首相だと思っているかもしれない。しかしこれで日本は紛争に巻き込まれる可能性が高まると思います。それはともかくとして、補選の結果いかんにかかわらず、今回の訪米の成果で支持率も少しは上向くと思っているんじゃないでしょうか。だから、解散の可能性は否定できないと思います。しかし、もういいかげんパフォーマンスばかりの『総理ごっこ』はやめにして、真に日本の国益と将来を考えてもらいたいと思います」 

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