岸田文雄首相(自民党総裁)は7日、党憲法改正実現本部の会合に出席し、8月中に憲法9条への自衛隊明記に関する論点を整理するように指示した。改憲のための最初の国民投票について、党が掲げる改憲4項目のうち、議論が先行している緊急事態条項の創設に自衛隊明記も加え、2項目を同時に問うべきだとの考えも示した。

◆8月中に「論点整理」へ

自民党の憲法改正実現本部の全体会合に出席した岸田首相(佐藤哲紀撮影)

 首相は会合で「国民の命を守るという国家の最も重要な責務をしっかりと明記することは大変重要な課題だ」と主張。発議の対象について「憲政史上初の国民投票にかけるならば、緊急事態条項と併せて自衛隊明記も国民の判断をいただきたい」と訴えた。  衆院憲法審査会では、大規模災害時などの緊急事態に国会議員の任期を延長する改憲について、自民は公明党や一部の野党と条文案作成の必要性で一致している。党内では、まずは議員の任期延長に関する改憲に取り組むべきだという意見がある一方、「最初の国民投票が、議員の身分を守るためだと見られてはいけない」という懸念の声も出ていた。  今後は実現本部に、自衛隊明記などの論点整理のための作業部会を設置し、月内を目標に検討を進める。議員任期延長の条文化に向けた作業部会も同時に設ける。(井上峻輔)    ◇   ◇

◆唐突な「指示」…岸田氏は9年前「当面、9条改正は考えていない」と 

 岸田文雄首相が、憲法9条への自衛隊明記に強い意欲を示した。改憲を掲げ続けた故・安倍晋三元首相が「本丸」に位置付けた項目を持ち出したのは、9月の自民党総裁選を見据え、安倍派など保守層の支持を得たいとの思惑からだが、党内に冷ややかな声もある。  衆院では自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党と院内会派「有志の会」の5会派が、大規模災害時などに国会議員の任期を延長する緊急事態条項について、条文化の手前まで議論を進めていた。一方、自衛隊明記の議論は深まっておらず、首相がこの段階で持ち出したのは唐突に映る。

自民党の憲法改正実現本部の全体会合であいさつする岸田首相(奥左から3人目)=佐藤哲紀撮影

 首相は7日の党憲法改正実現本部で「来年の結党70年の大きな節目に向け、党是である改憲について議論を進めるよう、党総裁としてもお願いする」と強調。総裁任期満了後となる「来年」にわざわざ触れた。中堅議員は「総裁選を意識している」と分析するが、「何か言っている、くらいにしか思わない」(関係者)との反応もある。  党内でハト派と位置付けられる岸田派(宏池会)を率いていた首相は、もともと改憲に積極的な立場ではなかった。2015年の安全保障関連法成立直後の派閥会合では「当面、9条自体は改正することを考えていない」と明言している。  昨年11月の参院予算委員会では、議員歴約30年の間に、国会で憲法を議論する組織に一度も所属したことがないことを認め、野党から「改憲に前のめりなのは、総裁選再選のために(党内の)右派をつなぎ留めたいからだ」と指摘された。  内閣支持率は低迷し、党内で首相の総裁選不出馬を望む声は根強いが、有力な対抗馬の出馬表明はまだない。首相は改憲の打ち出しが、総裁再選につながると考えている可能性もある。  ただ、国会の憲法論議は野党も含めた幅広い合意形成が必要で、改憲に強いこだわりを持った安倍氏でも実現できなかった。首相が前のめりになればなるほど、合意形成は難しくなる。(川田篤志) 

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