9月の自民党総裁選への不出馬を表明し退陣が決まった岸田文雄首相は15日、全国戦没者追悼式で最後の式辞を読んだ。昨年まで盛り込んでいた「積極的平和主義」の表現を外し、「人間の尊厳」を用いて独自色を演出した。一方、今年も「反省」に触れず、アジア諸国に対する責任にも言及しなかった。首相は「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」と述べたが、岸田政権の2年10カ月では敵基地攻撃能力(反撃能力)保有に踏み切るなど、「不戦の誓い」と矛盾しかねない安全保障政策が進められてきた。 (大野暢子)

◆安倍晋三元首相が掲げた「積極的平和主義」

全国戦没者追悼式で黙とうされる天皇、皇后両陛下と参列者=東京都千代田区の日本武道館(布藤哲矢撮影)

 首相は昨年の式辞で「積極的平和主義の旗の下、世界が直面する課題解決に全力で取り組む」と宣言。「積極的平和主義」は安倍晋三元首相が自衛隊の海外派遣拡大を正当化した表現で、2020年の安倍氏の式辞以降、4年連続で用いられた。  首相は今回、各地で悲惨な争いが絶えないことを念頭に「『人間の尊厳』を中心に据えながら世界が直面する課題の解決に取り組む」との言い回しに変えた。  「人間の尊厳」は、首相が2023年9月の国連総会一般討論演説などで用いた表現で、市民個人の平和や安定を重視する価値観を強調する意味合いがあるとみられる。

◆「現政権が人間の尊厳を重視してきたとは言えない」

全国戦没者追悼式で式辞を述べる岸田首相(池田まみ撮影)

 もっとも岸田政権は2022年、安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増を決定。殺傷武器の輸出解禁にも道を開いた。今年7月、「核の傘」を含む米国の戦力で日本の安全を確保する「拡大抑止」に関する日米閣僚会合を初開催し、核抑止への依存度も高まっている。  京都精華大の白井聡准教授(政治学)は「安倍政権との違いをアピールしたつもりなのかもしれないが、対米従属の姿勢はむしろ強まった」と指摘。日本が他国との戦争に巻き込まれる危険が高まりつつあるとし「現政権が人間の尊厳を重視してきたとは言えない」と語った。 

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