防衛省が30日に決定した2025年度予算の概算要求は、史上初の8兆円超に膨らんだ。政府は23年度からの5年間の防衛費を総額43兆円程度にする方針で大幅増を続けるが、値上がりで計画時の単価を大幅に超過した戦闘機や艦艇が目立つ。計画通り調達すれば、43兆円に収まらず、国民負担がさらに増える恐れがあるが、敵基地攻撃能力(反撃能力)に関連する新規の大型事業も次々と計上。識者は「節減の努力がみられない」と懸念を示す。(大野暢子)

◆価格が高騰…でも買う、買う、買う

 武器の値段はどれぐらい上がっているのか。  米国から購入するステルス戦闘機F35Bは当初、4000億円で計25機を調達する計画だったが、円安傾向や人件費の高騰で、160億円だった単価が2025年度概算要求では202億円に上昇。2026、27年度にはさらに計7機を調達する予定で、このままでは計画額を超える可能性が高い。  護衛艦は計画時の666億円から1046億円、潜水艦も800億円から1161億円まで高騰。防衛省は「まとめ買いや長期契約による効率的な調達に努める」と繰り返すが、効果は限定的。宇宙や無人機、サイバー分野で新たな経費を要求し、膨張する一方だ。

◆5年43兆円のままでも財源不足 防衛増税の開始時期は未定

 自民党議員は「想定を超えた円安で物価高もある。増額しないといけない」と強調。2022年末に閣議決定された防衛力整備計画に明記された43兆円の枠の引き上げを主張する。  「物価や人件費の高騰、為替変動を考えると、43兆円の枠内で本当にできるのか見直す必要がある」。防衛省が設置した防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の今年2月の初会合で、座長の榊原定征経団連名誉会長がこう口火を切った。  榊原氏は「見直しをタブーとせず、より実効的な水準や国民負担を議論するべきではないか」とも述べ、物議を醸した。政府は現時点で43兆円の枠を堅持するとの立場だが、与党や経済界から声を上げさせ、増額を既定路線にしようとする思惑が垣間見える。  43兆円ですら財源が約1兆円不足するとして防衛増税が決まっているが、開始時期は未定だ。43兆円の枠を取っ払って、防衛費が上振れすれば、さらなる増税など国民負担が一層重くなる不安は拭えない。

◆「さらなる増額を安易に許すような雰囲気には危うさ」

 防衛省では、海上自衛隊の潜水艦修理契約を巡り、川崎重工業が架空取引で裏金を捻出し、隊員を接待していた疑惑が浮上。特別防衛監察が行われており、防衛予算には国民から厳しい目が向けられている。  慶応大の土居丈朗教授(財政学)は「財源の一部が確保できていないのに、さらなる増額を安易に許すような雰囲気には危うさを覚える」と指摘。「『物価が上がったから予算も上げて』では、国民の理解は得られない。近年の予算が適切に使われたかの検証や支出軽減が必要だ」と訴える。

 防衛力整備計画 自衛隊に必要となる防衛力の水準と、中長期的な装備をまとめた計画。2022年末に閣議決定された計画では、敵基地攻撃能力の強化やドローンなどの無人アセット(装備品)といった7分野を重視すると決定。2023〜27年度の防衛費を従来の1.6倍の43兆円程度にすると明記した。5兆円台だった防衛省の当初予算は、23年度に6兆8000億円、24年度に7兆9000億円に伸びた。



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