沖縄 米海兵隊普天間基地 宜野湾市の住宅密集地に隣接する米海兵隊普天間基地(後方)

 自民党は17日、総裁選に立候補した9人による演説会を那覇市で開いた。各候補の演説では、沖縄の民意に反して歴代政権が強引に進めてきた米軍普天間(ふてんま)飛行場=沖縄県宜野湾(ぎのわん)市=の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)での新基地建設に関する直接的な言及は乏しかった。沖縄の基地負担軽減は掲げるものの、新基地建設を見直す姿勢は示されなかった。

◆石破氏は基地負担への「おわび」を表明したが

 石破茂元幹事長(67)は沖縄の基地負担について「深くおわびする」と述べ、辺野古への移設計画が「十分に沖縄の理解を得ていない」と語った。  林芳正官房長官(63)は、普天間返還の早期実現に取り組む考えを強調した上で「民主党政権という残念な時代があった。遅れを取り戻すため、(現政権までの)取り組みを引き継ぐ」と訴えた。  移設問題に直接触れたのは石破、林両氏のみ。上川陽子外相(71)は米兵による性犯罪が相次ぐ状況を問題視した。加藤勝信元官房長官(68)は、沖縄振興予算を増やして経済を拡大するとし、「普天間の跡地利用」に触れた。

◆各候補の訴えは「経済振興」や「防衛力の強化」

 各候補の訴えの中心は、経済振興の加速や防衛力の強化だった。小泉進次郎元環境相(43)は「基地の存在を逆手にとって地域住民の生活を向上させたい」と説明。小林鷹之前経済安全保障担当相(49)も沖縄のスタートアップ企業を後押しし、基地負担軽減を加速させるとした。  茂木敏充幹事長(68)は、経済成長により「増税ゼロ」で防衛力強化を実現すると強調した。一方、河野太郎デジタル相(61)は安全保障の議論を「しっかりと説明する」、高市早苗経済安保相(63)も防衛力などに立脚し「国力を強くする」と訴えたが、基地問題には触れなかった。(近藤統義、中沢穣)   ◇

◆立憲民主の候補者たちも慎重な発言ばかり

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡って、立憲民主党代表選に立候補した4人のうち、枝野幸男前代表(60)と泉健太代表(50)は「工事をいったん中止する」と訴える。しかし4人とも外交・安全保障政策の継続を強調する立場から、移設計画の撤回などには踏み込まず、慎重な発言に終始している。

沖縄県名護市辺野古の沿岸部(2019年撮影)

 普天間の問題に関し、旧民主党政権は「最低でも県外」を掲げながら、最終的に辺野古移設案に回帰した。国民の失望を招いた反省を踏まえ、立民は辺野古の工事を中止し、米政府と再交渉する政策を掲げる。  党沖縄県連の質問に対し、泉氏は「まず県と政府の真摯(しんし)な対話を行うべきだ」と強調した。枝野氏も「負担軽減について米側と交渉を開始する」と訴えた。吉田晴美衆院議員(52)は、辺野古移設に否定的な考えを示すが、中止には直接触れなかった。  野田佳彦元首相(67)は県連に「立ち止まって見直しを求めるとのこれまでの党の方針を踏まえ、対応する」と回答。ただ、これまでの討論会などでは、辺野古移設を進める基本的な方針に変更がないとの考えも示す。  一方、4人とも日米地位協定を問題視し、改定を目指す考えを強調している。(中沢穣)   ◇

◆辺野古の基地が国益にかなうのか、原点に戻って議論を

 前泊博盛・沖縄国際大教授(日米安保論)の話 自民党総裁選の候補者が基地問題に積極的に触れないのは、振興策で県民の歓心を得ることができるという考えが根付いているからだ。米国に寄り添った政治しかできず、問題解決能力の欠如を表している。  立憲民主党代表選の候補者も日米地位協定の見直しには触れるが、具体策は示していない。民主党政権時、基地問題で痛い目に遭った経験があるからだろう。  両党とも日米同盟を基軸にする方針に違いはなく、沖縄問題で墓穴を掘りたくないという姿勢がにじみ出ている。米国の戦略が変化する中、従来型の基地が辺野古に本当に必要なのか、日本の国益にかなっているのかという原点に立ち返った論戦を今こそすべきだ。 

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