元官房長官の加藤勝信は12日、都内にある義父で元農相の加藤六月の墓に手を合わせた。自民党総裁選の告示当日に「最後まで総裁選を戦い、総裁への道をしっかり切り開いていく」と誓った。
六月は元首相の安倍晋三の父、晋太郎の側近だった。安倍、加藤両家は家族ぐるみの付き合いを持った。
加藤は岡山県選出だった元首相、橋本龍太郎とのつながりで旧茂木派(平成研究会)に所属し続けた。それでも派内で「安倍派にいつ移籍しても驚かなかった」とみられるほど安倍と近かった。
一億総活躍相や官房副長官、自民党の総務会長として安倍政権を支え、安倍は首相候補のひとりに加藤をあげていた。
加藤の目玉公約は安倍との間柄がにじむ。
国民所得倍増を柱とする「ニッポン総活躍プラン」は安倍が経済政策アベノミクスの一環で掲げた「ニッポン一億総活躍プラン」と酷似する。加藤は「安倍首相と一緒にアベノミクスを推進した。私にその精神が染み込んでいる」と訴える。
元大蔵官僚で、のべ3年超務めた厚生労働相として新型コロナウイルス禍の対応にあたり、官房長官も務めた。同僚議員から「抜群の安定感と調整力がある」との評がある。半面、黒子役のイメージが前面に出てきた。
派閥会長で幹事長の茂木敏充を差し置いて加藤が総裁選に名乗りをあげないとの見立ても多かった。茂木自身も周囲に加藤について「出ると思わなかった」と漏らす。
派閥の政治資金問題を受け、茂木派の今後を協議した4月中旬の会合。政治団体を解散しつつ政策集団として事実上存続する案を推す意見表明が相次ぐ状況で、目を閉じて話を聞いていた加藤がおもむろに手を挙げた。
「きちんと整理した方が良い」「平成研として線を引いた方が良い」――。こう口にすると会合後にいち早く記者団の前に現れて「解散が決まった」と述べた。加藤が「独立」の意志をみせたとの受け止めが広がった。
安倍の継承者を旗印に一歩を踏み出したものの、基盤にもろさもある。陣営を支える橋本岳や山下貴司は加藤と同じ岡山県選出のつながりだ。
推薦人も20人中6人を地元の岡山県連の議員で確保した。経済安全保障相の高市早苗に近いとされる参院の小野田紀美もその一人だ。さらに総務会長の森山裕らに推薦人集めで頼った面もある。
周辺は「必ずしも加藤を強く支持して集まったとはいえない」と語る。
日本経済新聞社の13〜15日の世論調査で聞いた「次の総裁にふさわしい人」で加藤は1%と9候補で最も低い。知名度不足は否めない。
そんな加藤が3年ほど前からSNSでしかけたのが自撮り動画だ。自らをアップに写す独特な構図が「#かつのぶフレーム」と話題になった。
勧めたのは娘だった。編集に加わり、時に「響かない」とお蔵入りさせることもある。告示日には都内で動画クリエーターらを支援する企業を視察し、娘がファンという著名ユーチューバーの関根りさと一緒に動画でフォローを呼びかけた。
支持の広がりで後れを取ったものの総裁選出馬で広く発信する新たな機会を得た。茂木と同じ68歳の加藤にとって次を見据えた布石になったとの見方がある。
=随時掲載、敬称略
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