米海軍は18日に発表した新たな指針「航海計画2024」に、2027年までに中国との戦争が起こる可能性に備えると明記した。米中対立の先鋭化をあおりそうな内容だが、いったいどんな計画なのか。日本に与える影響とは。文書の中身と背景を専門家と読み解いた。(西田直晃)

◆「もはや平時ではなく、戦時を意識した軍拡だ」

 「2027年までに戦争に備えるようにと、中国の国家主席は軍に指示した。われわれはその準備を上回る」

米海軍が公表した航海計画2024。「27年までに中国と戦争になる可能性に備える」と明記された

 2年ぶりに更新された航海計画で、制服組トップのリサ・フランケティ作戦部長はこう強調した。「対中戦争への備え」と「海軍の長期的な優位性の向上」を今後の戦略目標と位置付け、戦力の確保や司令機能の強化、艦船、潜水艦、航空機のメンテナンスの遅延解消などを具体的に掲げた。  軍事ジャーナリストの小西誠氏は「2年前と違い、軍事作戦に関する文書に中国と明記された。もはや平時ではなく、戦時を意識した軍拡だと言える。日本も人ごとではいられない」と危機感を口にする。

◆「日米の対中戦略はかつてないほど重なり合った」

 文書では、米英豪の安全保障の枠組み(AUKUS=オーカス)と異なり、日本は名指しこそされていないが、至る所で「同盟国との連携」というフレーズが繰り返される。小西氏は「すでに日米間で、従来の在日米軍司令部を『統合軍司令部』に再編し、韓国やフィリピンと連携を強め、共同作戦を遂行するという姿勢を確認している。中国の海軍力に対し、単独では戦えないとの目算が米軍にあるためだ」と話す。  文中で「重視すべきだ」と訴えるのは、今は50%程度とされる艦船、潜水艦、航空機の稼働率を「80%に向上させ、維持する」という記述だ。「常に戦闘可能な体制だ。艦船の修復技術が低下している米国には、メンテナンスの遅れを解消するため、一部を日本に任せる思惑がある」と語り、「南西諸島への長距離ミサイル部隊の配備、九州での弾薬庫の増設も進み、日米の対中戦略はかつてないほど重なり合った。中国の周辺海域で米軍が挑発行動を続ければ、偶発的な衝突が海洋限定戦争に発展する恐れがある。米中衝突が現実に迫ってきた」と危ぶむ。

◆「数年のうちに中国に戦争を起こす体力はない」

 一方、中国経済に詳しい東京財団政策研究所の柯隆(かりゅう)主席研究員は「チャイナリスクは確かに存在するが、すぐに戦争に発展するとは考えにくい」とみる。巨大経済圏構想「一帯一路」に基づく対外融資は縮小し、不動産バブルの崩壊が地方経済の停滞を招いており、「財政状況を考慮すれば、数年のうちに中国に戦争を起こす体力はない。米国も把握しているはずなのに、台湾有事をあおりすぎだ。(航海計画には)軍事予算を増やす狙いが垣間見える」と指摘する。

米海軍が公表した航海計画2024

 「27年危機説」はこれまでも、米海軍や米中央情報局(CIA)の首脳がたびたび口にしてきた。2021年3月の米上院軍事委員会の公聴会では、デービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)が「6年以内に台湾侵攻の恐れがある」と主張。昨年2月、CIAのバーンズ長官も「習近平国家主席が『2027年までに台湾侵攻を成功させる準備』を軍に指示した情報を把握している」と述べた。  元海上自衛官で軍事評論家の文谷数重氏は「2027年までに限定する根拠が示されたことがない。中国脅威論をあおり、予算獲得の材料に用いているだけでは。文書にある軍事力増強の具体的な項目は『お買い物リスト』のようなものだ」と疑問を呈し、冷静に受け止めるよう促す。「中国と日米は特に敵対意識が高まっているわけではない。例えば、日中は最近の領空侵犯や護衛艦の領海侵入についてミスだと認め合っている。必要以上に踊らされるべきではない」 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。