自民党総裁選で一部の候補者が、歴代政権が堅持してきた非核三原則の見直しや、北大西洋条約機構(NATO)のような集団安全保障の枠組みをアジアに設ける構想などを訴えている。これらは日本の防衛政策の大転換につながる主張なだけに波紋を広げている。

共同記者会見に臨む(左から)高市早苗、小林鷹之、林芳正、小泉進次郎、上川陽子、加藤勝信、河野太郎、石破茂、茂木敏充の各氏=9月13日、自民党本部で

◆タカ派色強い主張が次々と…

 「戦後最も複雑で厳しい安全保障環境に向かい合うリーダーを選ぶ選挙になっている」。小泉進次郎元環境相(43)は25日、中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、記者団に語った。23日にはロシア軍機が領空侵犯。日本を取り巻く安保環境の厳しさを示す事案が続発する中、安保を巡る論戦ではタカ派色の強い主張が相次いでいる。  高市早苗経済安全保障担当相(63)は9日のBS番組で、核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」とする非核三原則の「持ち込ませず」の見直しに言及。現状では核兵器を搭載した米艦や米軍機が国内に立ち寄れないとし、「これでは日本の安全を守れない」と強調した。  石破茂元幹事長(67)も「持ち込ませず」の見直しに同調。16日の討論会では、米国の核兵器を日本で運用する「核共有」は「非核三原則に触れるものではない」と指摘し、検討に前向きな姿勢を見せた。

導入が進む航空自衛隊のステルス戦闘機F35A(資料写真)

 また、石破氏は「アジア版NATO」の創設を掲げる。16日の討論会では、集団的自衛権の行使について「権利なので(他国防衛を)やらないとも言える。それでは安全が確実なものにならない」と主張。互いに有事となれば武力による防衛が義務となる体制を目指すとした。  河野太郎デジタル相(61)は5日、中国の海洋進出を念頭に、自衛隊への原子力潜水艦(原潜)配備を議論する必要性に言及した。米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)に加わる構想を披露し「東シナ海から太平洋へ出るところを押さえる戦略を議論する時代になっている」と述べた。

◆防衛省からも「国内に技術ない」「非現実的」

 こうした論戦に対し、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」国際運営委員の川崎哲さんはシンポジウムで「抑止力の強化一辺倒では危険。有事に真っ先に被害を受けるのは私たちだ」と批判。「武器取引反対ネットワーク(NAJAT)」の杉原浩司代表も会見で「危うい議論が行われている」と話した。  防衛省関係者は原潜保有について「コストがかかる上、安全に管理する技術が国内で確立されていない」と戸惑う。同省幹部もアジア版NATOに関し「非現実的だ」と指摘した。(大野暢子)

 非核三原則と核軍備 核兵器を保有しない、製造しない、持ち込まないとする原則。1967年、佐藤栄作元首相が国会で表明、71年には国会も決議した。安倍晋三元首相が議論を提起した「核共有」について、岸田政権は「認められない」との立場だが、「核抑止力を含む米国の拡大抑止の信頼性を維持、強化していくことは不可欠」(木原稔防衛相)との認識も示す。原子力潜水艦の保有は「原子力基本法の現行解釈に従えば難しい」(林芳正官房長官)とする。



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