能登半島地震や記録的豪雨など自然災害に毎年のように襲われる日本。自民党総裁選でも「防災」は主要テーマで、備えから復興を一手に担う「防災省」といった省庁設立も議論になっている。1~2年の出向者で構成する内閣府防災担当が各省庁の調整役となっている現状には、自治体や専門家から「縦割り行政の弊害があり、専門家も育たない」と批判が上がっている。(小沢慧一)

 災害省庁めぐる議論 石破茂元幹事長は専任の大臣を置いた「防災省」の設置を主張。加藤勝信元官房長官は首相直轄の「危機管理庁」を設けるとしている。一方、小林鷹之前経済安全保障担当相は新省庁は不要との立場を示している。

◆防災担当は「窓際だと思っている人も」

 「防災を志望して来た人はあまり聞かない。好き嫌いが分かれるため、人によっては『窓際』の部署だと思っている人もいる」。内閣府防災担当のある職員は内部事情をこう打ち明ける。

内閣府などがある中央合同庁舎8号館(資料写真)

 防災担当は2001年の中央省庁再編で、旧国土庁防災局の代わりに設置。防災担当大臣の下、約150人の職員が所属する。防災計画の企画立案や他省庁との調整が主な業務で、現場で救助などに当たる実動部隊は持たない。  国土交通省からの出向が多く、自治体や民間出身の職員もいる。大体が1回限りの出向で、役職を上げて2回目となる職員もいるが、「3回来る人はいない。専門家が育つ環境ではない」と前出の職員も問題意識を持つ。  「縦割り行政」の弊害も指摘されている。21年の共同通信の調査によると、全国自治体の61.4%が防災省を必要と答えた。全国知事会などは政府に防災省(庁)の創設を要望している。

◆東日本大震災を受けて議論されたが…

 政府は、東日本大震災を受けて新たな省庁による危機管理体制の強化を検討したが、15年に「積極的な必要性は見いだしがたい」と結論づけた。内閣府防災で幹部だったOBは「結局防災省も内閣府と同じく他省庁と連携をせざるを得ず、今と変わらない」とし、けん制した。「各省庁から専門家が集まりうまく対応できている。内閣府防災で何がいけないのか」  海外では、米国の連邦緊急事態管理局(FEMA)やイタリアの市民保護局など、防災を専門とする省庁は多い。静岡県で40年近く防災担当を務めた静岡大の岩田孝仁特任教授は「職員が他省庁からの短期の寄せ集めだと、出向元の省益に目が行く。防災には経験の蓄積が必要でプロパーの職員が不可欠」と指摘する。

◆予算や権限を集中すると、他省庁から妨害が…

 防災省を設置すると、他省庁から予算や権限を移譲する可能性がある。岩田氏は「予算や人員確保に心血を注ぐのが官僚の性(さが)。もし各省庁から防災部門を取りあげると、政権が総スカンを浴びる」とし、「総理クラスのパワーを持った人がトップダウンで改革しないと実現は難しい」と話す。

リーダー交代を控える首相公邸(左下)と首相官邸。トップダウンの改革でなければ新省庁の実現は難しいのか(資料写真)。

 防災省の必要性を長年訴える関西大の河田恵昭特任教授(防災・減災学)は「防災行政をマネジメントするには関係する法律を改正し、防災省に財源を持たせることが必須。今のままでは大規模災害には絶対対応できない」と強調した。 

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