立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相(67)が選ばれた。前身の民主党時代を含め、代表再登板となる。ただ代表選に立候補する際、「昔の名前」と自認した通り、刷新感は薄い。スポーツやビジネスの世界では、リーダーの再登板はめずらしくないが、野田氏の場合はうまくいくだろうか。既に党内人事で不協和音の兆しが漂う中、総選挙に勝利し、首相再登板まで実現する可能性は。(中川紘希、山田祐一郎)

23日、立憲民主党の新代表に選出され、気勢を上げる野田佳彦氏(右から2人目)ら(平野皓士朗撮影)

◆毎日のチラシ配り「受け取る人やや増えた」

 25日朝の千葉県船橋市のJR西船橋駅。野田氏がほぼ毎日続けてきた地元の駅前でのチラシ配りがあった。ただ新代表に選ばれた本人は多忙により不在。党関係者ら7人が活動した。地元秘書は「代表選告示以降は参加できていない。今後は、朝も首都圏の衆院選立候補予定者の応援に回る予定だ」と話した。  野田氏は同市生まれで、千葉県議を経て、1993年の衆院選で国政入り。2011年9月〜12年12月、首相と民主党代表を務めた。当選9回を数える。  代表再登板で地元の関心はそれなりに高まっているようだ。チラシ配りに参加した立民の斉藤誠市議は「受け取ってくれる人がやや増えた」と言う。衆院選の区割り変更で野田氏の地盤だった船橋市と市川市の一部が含まれる千葉4区から出馬予定の新人、水沼秀幸氏は「街の人から『頑張ってね』『おめでとう』と声を掛けられる」と話した。

野田佳彦代表が恒例とする駅前でのチラシ配り。代表選前後は多忙のため、本人は参加できていない=JR西船橋駅で

◆野田氏の地元の人たちは複雑な思い…

 野田氏の事務所には全国から電話も掛かっていて、8割は「自民党ではだめだ」「日本を再生させて」などの期待の声という。ただ残る2割は「野田ではだめ」「民主党政権を終わらせた人が代表になるべきではない」などという批判的な内容だった。  地元住民に思いを聞くと、野田氏への期待や親しみだけでなく、政策や立民への複雑な思いも垣間見えた。駅前でチラシを受け取った船橋市の女性(80)は「直接話したこともある身近な人。弁も立つ」と評価する。自民党には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や裏金問題で不信感が強く「政権交代でおきゅうをすえないとだめ」として、立民に期待する。ただ原発は段階的に廃止が理想と考えており「原発ゼロ」を打ち出さない野田氏と意見のずれも感じる。「太陽光や地熱発電などを増やし原発を廃止する方向で検討してほしい」と話した。  駅近くに住む80代女性も「野田さんは街頭活動にも熱心で人柄もいい」と話す。一方で「民主党政権も長続きせず、自民にしか国を任せられないと思っている」と説明する。「野田代表に刷新感がないという意見には賛成。本当は若い人が代表になるべきだ」と語った。

立憲民主党の臨時党大会を終え、記者会見する野田佳彦新代表(須藤英治撮影)

◆東京では「誰が代表になっても期待できない」

 東京都千代田区の日比谷公園に場所を移し、同じ質問をしてみた。自民党支持という神奈川県の大学4年生の男性(22)は「立民は、安全保障やエネルギー政策が非現実的で、政権を担えるだけの能力がない。誰が代表になっても期待できない」と冷ややかだ。野田氏はやや違った政策を打ち出しているが「党全体が変わるわけではない。違う意見を出してもまとめられない」と指摘した。  一方で東京都板橋区の中條和行さん(79)は「首相経験がある野田さんは落ち着きがあって論戦に強い。泉健太前代表のように若さはないが、政治家人生の最後のチャンスと思って、政権交代を目指して頑張ってくれるのでは」と期待した。

◆安保も原発もトーンダウン

 野田氏が新代表に選出されると、SNSでは「立民終わった」など批判的な意見が多く投稿された。立憲民主党の支持者と名乗る投稿も見られる。支持者からの反発の理由は何か。  「立憲民主党は、民主党から分裂したリベラル系の議員によって立党された経緯があり、いまでも最大勢力のリベラル派の影響力が残っている」と説明するのは元民主党事務局長で政治アナリストの伊藤惇夫氏。野田氏は代表選を通し、安全保障法制を「急転換しない」とし、党が掲げる「違憲部分の廃止」の方針からトーンダウン。エネルギー政策も、党方針の「原発ゼロ」ではなく、「原発に依存しない社会」を目指すとした。「現実路線を示したことを受け入れられない支持者が多いのだろう」と伊藤氏はみる。

◆スポーツ界では阪神・岡田監督が成功

22日、巨人に勝利し選手とタッチを交わす阪神・岡田監督(戸田泰雅撮影)

 再登板自体は必ずしも悪いとは言えない。スポーツ界でいえば、プロ野球阪神タイガースの岡田彰布監督が昨シーズン、15年ぶりに阪神監督として復帰。自身が監督だった05年以来18年ぶりにリーグ優勝を果たし、前回成し遂げられなかった日本一にも38年ぶりに輝いた。「1度目の体験で成功と失敗を経験した。それを繰り返さないよう注意を払っていたようにみえる」と野球解説者で元阪神の亀山努氏は話す。  1度目の監督時代は、08年に最大13ゲーム差をつけて首位を独走しながらも逆転されてリーグ2位となり辞任した。亀山氏は「2度目の就任後は直接、選手に不満を伝えず、コーチを介してコミュニケーションを取ることで組織内でうまく融和を図ったことが大きな変化だ」と説明する。目標を優勝に設定しつつ、あえて言葉にせずに「アレ」と表現したことも話題になった。「選手が気持ち良くプレーできるよう気を使っていたのだろう」

◆ニトリやユニクロも社長が復帰

ファーストリテイリングの柳井正氏㊥(七森祐也撮影)

 経済界ではどうか。大手家具販売ニトリホールディングス(HD)は2月から中核子会社ニトリの社長を創業者の似鳥昭雄会長が兼務している。14年5月以来の社長復帰となる。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングも05年に柳井正会長が兼務で社長に復帰。3年弱務めた前社長は、売上高目標が未達成で事実上解任された。柳井氏の下で同社は今年2月中間連結決算で、売上収益や純利益、営業利益がいずれも過去最高を記録した。スズキの鈴木修相談役も2000年に社長を退いたが08年に会長兼務で復帰し、15年まで務めた。  企業統治に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授(会計学)は「再登板するのは大半が創業家。カリスマ性があって業績は回復するかもしれないが、自身の業績がベースとなり、後継者はなかなかそれを超えられない」と説明する。長い目で見た企業統治の観点からは課題が残るという。「企業を将来に向けて継続して発展させる意味では再登板は一過性の対応でしかない。短期的な結果を求めるのではなく、中長期の視点がなければ人材を育成できない」。後継者不足は、代表選で野田氏と枝野幸男元代表の決選投票となった立民にも通じる問題だ。

◆「本気で政権交代を目指すなら…」

 野田氏は首相だった12年、当時野党の安倍晋三自民党総裁との党首討論で解散を表明して総選挙で惨敗し、安倍氏の首相再登板と長期政権を許した。代表選後の党内人事でも自身に近い議員を重用することに不満も高まる。野田氏は首相としても再登板できるのか。前出の伊藤氏はこう強調する。「本気で政権交代を目指すならば無党派層、保守層を取り込む現実路線が必要で、他の野党との調整も求められる。党内人事も含めて野田氏がどこまで自身の考えを貫けるか。独裁と言われても引っ張っていくぐらいの覚悟がなければ、事は進まないだろう」

◆デスクメモ

 2017年の希望の党結成を巡り、代表となった小池百合子東京都知事から「排除」されたリベラル系議員らが立憲民主党の基礎である。この時点の立憲民主に野田氏はいない。中道保守を意識した路線への理解を党内外でどう広げるか。対立と「排除」に陥るなら、首相再登板は遠い。
(北) 

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