立憲民主党の中村喜四郎元建設相(75)衆院比例北関東、15期=が今期限りでの政界引退を表明したのを受け、長男の中村勇太(はやと)茨城県議(37)が26日、地元の古河市役所で記者会見し、次期衆院選で父の地盤の茨城7区から「現時点では野党系無所属で」立候補する意向を表明した。 喜四郎氏は、1976(昭和51)年に衆院選に初出馬するに当たり、茨城県議や参院議員を務めた父の中村喜四郎氏(1971年死去)と同じ名前に改めた「2代目」。与野党に世襲議員は多いものの、名跡まで受け継ぐケースは珍しく、地元ではかねて「3代目」の誕生を待望する向きもあった。 記者会見では「『中村喜四郎』を襲名しないのか」と、まるで歌舞伎役者に尋ねるような質問も飛びだしたが、さて勇太氏の答えは―。(宮尾幹成、青木孝行)

衆院選への立候補を表明する中村勇太氏=9月26日、茨城県古河市で(青木孝行撮影)

◆家業の自動車学校継承で「喜四郎」に改名

政界引退を発表する中村喜四郎元建設相=9月24日、茨城県庁で(青木孝行撮影)

2代目中村喜四郎氏は、選挙への立候補ではなく、中村家が地元の茨城県坂東市で経営する自動車学校の経営権継承を理由に、戸籍名を出生名の伸(しん)から喜四郎に変更している。 戸籍名を変えるには家庭裁判所の許可が必要だが、家業の継承であれば認められやすい傾向がある。有名なケースはミツカングループ創業家の「中野(中埜)又左衛門」だろう。江戸時代後期の初代から、2002~2014年に社長を務めた中埜又左エ門和英氏まで8代を数えた。 現代の日本では、歌舞伎や落語といった伝統芸能、茶道や生け花の家元、大相撲の力士や行司などの世界でも、先代からの襲名は広く行われているが、いずれも戸籍上の本名ではない。 2代目中村喜四郎氏の評伝「無敗の男 中村喜四郎 全告白」によれば、当時の中選挙区の衆院茨城3区(定数5)には、赤城宗徳氏、丹羽喬四郎氏ら自民党議員だけで4人もひしめいており、2代目は、そこに割って入るために父の知名度を最大限に活用しようと考えたという。 著者の常井健一氏の取材に、2代目は「大衆政治家のイメージを父から引き継いで(土着の特権階級に支えられた政治勢力に対抗し)、打倒赤城、打倒丹羽で行く。それを頭の中で思い描いた」と語っている。

◆よど号事件で身代わり「男やましん」は11代目

よど号ハイジャック事件で北朝鮮から生還した山村新治郎運輸政務次官(先頭)=1970年4月5日、羽田空港で

政治家の襲名は、いかにもありそうだが、実はそれほど多くはない。「中村喜四郎」と並んで有名なのは「山村新治郎」だろう。千葉県香取市で江戸時代から米穀商を営む旧家で、10代目と11代目が2代にわたって衆院議員として活動した。 農林水産省や運輸相を歴任した11代目は、運輸政務次官だった1970年3月によど号ハイジャック事件に遭遇し、犯人グループと韓国・ソウルで交渉。乗客の解放と引き換えに自ら人質となって北朝鮮に渡ったが、無事に帰国を果たし、「男やましん」と称えられた。 小渕恵三元首相の兄で群馬県中之条町長を務めた2代目小渕光平(みつへい)氏は、出生名を改めて、衆院議員だった父の名前「小渕光平」を受け継いでいる。 岩手県選出で3代続けて衆院議員を輩出した「菊池長右衛門(長右ェ門)」の例も挙げられる。岩手県議や岩手県宮古市長を経て2009年に民主党の衆院議員に転じた3代目菊池長右ェ門氏は、2012年に離党して「国民の生活が第一」の結党に参画するなど、同郷の小沢一郎氏と行動をともにした。

◆「名前を継がないことで覚悟を決める」

自らオートバイを運転して選挙区を回る独特の活動スタイルで知られた中村喜四郎氏㊨=2021年10月、茨城県坂東市で(出来田敬司撮影)

今回引退表明した中村喜四郎氏が2代目であることは、茨城県内ではよく知られた事実だ。 中村勇太氏は記者会見で、「『喜四郎』を襲名しないのか」との質問に「知名度のある名前を継がないことで覚悟を決める。冗談でも継がない」と即答した。別の記者から「考えたこともないのか」と重ねて聞かれると、「一回も考えたことがない。父はまだ生きており、かぶってしまう」と強調。「中村勇太としてやっていく」と笑顔を見せた。 ただ、「名跡」は継がずとも、勇太氏が父から「地盤(組織)・看板(知名度)・かばん(資金力)」をバトンタッチできることには変わりない。とりわけ中村家の後援会組織「喜友会」は鉄の結束で知られ、高い集票力を誇ってきた。 世襲批判について問われた勇太氏は、こう力を込めた。「私はどうやっても世襲と言われてしまう。世襲であることを忘れてもらえるよう、努力していきたい」 次期衆院選で茨城7区には、自民党現職の永岡桂子元文部科学相(70)=6期=も立候補を予定している。

自民党の永岡桂子氏。茨城7区では毎回、中村喜四郎氏と激しい戦いを繰り広げてきた=9月18日、茨城県古河市で(青木孝行撮影)



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