ロシアによるウクライナ全面侵略の開始から2年半以上が経過した。日本はウクライナに対して人道支援や復旧・復興支援を継続的に行ってきた。本稿ではその国際的な位置づけについて概説し(※1)、日本の支援の特徴について紹介する。また、今後のウクライナ支援を考える上での課題についても踏み込んでみたい。

日本の支援総額は世界5位

2024年6月13日に日本とウクライナとのあいだで締結された「日・ウクライナ支援・協力アコード」によると、これまでの日本の支援額は総額120億米ドルを超える(※2)。一方、キール世界経済研究所(ドイツ)の「ウクライナ支援トラッカー(UST)」最新版によれば、24年6月末までの日本の支援総額は91.1億ユーロ(100億ドル弱)と、日本政府が公表した額を若干下回る(※3)。この差異は、支援項目のカウント方法の相違に基づくものと考えられる。

USTによれば、日本の順位は米国(751.0億ユーロ)、ドイツ(235.6億)、英国(130.0億)、フランス(119.9億)について5位(91.1億)である。一方、支援額が各国の国内総生産(GDP)に占める割合を比較すると、デンマーク(1.83%)、エストニア(1.66%)、リトアニア(1.43%)、ラトビア(1.35%)などの欧州諸国が高く、米国が23位(0.35%)、日本は31位(0.20%)となっている。

重要な地雷除去支援

現在のウクライナにおいて必要性が極めて高く、かつ日本の経験を生かした支援の筆頭に挙げられるのが、地雷除去支援である。現在ウクライナには、国土の約3分の1にあたる17万4000平方キロ(北海道と東北地方の合計を上回る面積)に約200万発の地雷がロシアによって埋められているとされる。この除去には少なくとも10年以上、380億ドルの費用が必要と指摘されている。

この点、日本はカンボジアへの地雷除去支援など、豊富な経験がある。ロシアによる侵略開始以降、日本政府は国際協力機構(JICA)を通じ、ウクライナに小型の地雷探知機50台、重機型除去機約10台などを提供したほか、除去機操縦担当者の訓練も日本で実施した。

この取り組みは、かつて日本が重点的に支援したカンボジアとの協力関係のもとで実施している。ウクライナの地雷除去担当者の研修は、カンボジアで行われている(※4)

同国はロシアに制裁を科してはいないものの、2022年10月12日の国連総会におけるロシアによるウクライナ4州併合非難決議にも、23年2月23日の国連総会におけるロシア撤退を求める決議にも、賛成票を投じている。そのようなカンボジアと日本が、ウクライナの地雷除去を巡って連携することは、戦禍に見舞われた国に対する日本の支援が後の時代にどのように花開くのかを示す事例であるだけではなく、この侵略を巡るグローバル・サウス諸国の認識と行動をめぐる「通説」──すなわち、「ウクライナ支援を行っているのはごく一部の『西側諸国』に過ぎず、グローバル・サウス諸国はこれに否定的である」という言説──に対する、重要な反証ともなっている。

国際会議の開催:「場の設定」という支援

ロシアによる絶え間ない攻撃を受け続けているウクライナ社会の疲弊は、侵略の長期化と共に深まる。このためウクライナ支援の「必要性」はむしろ増大している。しかし同時に、支援諸国では「支援疲れ」の現象が見られるようになる。

国際的な支援機運を維持する観点から、日本がウクライナ支援の検討・実施のための大規模な国際会合に継続的に参加し、また自ら開催してきたことは、それ自体が重要な支援であったといえる。これにより、日本は必ずしもウクライナ支援に積極的ではない(なかった)国々とウクライナとを「引き合わせる」役割をも果たした。

2023年5月には先進7カ国(G7)議長国として広島サミットを開催し、そこにゼレンスキー大統領が参加した。この機会はロシアによる全面侵攻後初めて東アジアを訪問し、G7諸国に直接支援を訴える場となっただけでなく、招待諸国の韓国やオーストラリア、インドなどとも会談を行うことが可能となった。

中でも、この広島サミット時のウクライナ・インド首脳会談で、インドのモディ首相から「戦争を終わらせるために必要なことは全て行うつもりだ」との言葉を引き出したことは(※5)、その後のウクライナの対インド外交の観点からも重要であったといえる。当時インドはロシアによる侵略行為については非難するものの、必ずしもウクライナ支援に積極的な立場を示してきたわけでもなかった。その意味では、日本がインドとウクライナの「引き合わせ」に一役買った意義は決して小さくない。

「平和の公式」を支える支援

ウクライナが国際社会に向けた働きかけにおいて苦戦してきたことのひとつに、同国が望む終戦・平和構築の条件である「平和の公式(平和フォーミュラ)」への支持取り付けがある。これは2022年11月の20カ国・地域(G20)首脳会議でゼレンスキー大統領が提示した10項目の条件で、「放射能と核の安全」「すべての被拘束者と追放された人々の解放」「ウクライナ領土からのロシア軍の撤退」、「国連憲章の履行とウクライナの領土的一体性の回復」などを含む。ロシアによる侵略が二度と繰り返されないことを確保し、永続的な平和を享受するためには欠かせない条件である。それにも関わらず「平和の公式」の国際的な認知度は低く、「平和の公式」その支持拡大をめざすウクライナ外交は苦しい闘いを続けてきた(※6)

日本は「平和の公式」をその公表当初から支持し続けてきた。前述の「日・ウクライナ支援・協力アコード」を始めとした日本政府による数々のウクライナ関連の声明に、「平和の公式」への支持が盛り込まれてきたことは、ウクライナにとっては極めて心強いことであったことは疑いの余地がない(※7)

忘れないこと、知ること

日本の支援はこのほか、エネルギーインフラを破壊されたウクライナ各都市に対する越冬支援(無償資金協力や発電機、ソーラー・ランタン等の提供)や保健・医療体制整備支援、深刻な傷を負った兵士に対するリハビリ支援などがあり、ウクライナから高く評価されている。

今後の日本のウクライナ支援を考える際に重要なこととは何だろうか。筆者はこれを、「忘れないこと」、そして「正確に知ること」ではないかと考える。

第一に、侵略開始後2年半がたった今だからこそ、ウクライナが今なお侵略の悲惨な被害を受け続けていることそのものを「忘れないこと」が肝要である。現在でもウクライナでは子ども病院などの民間施設がミサイル攻撃を受けるなどし、犠牲者が日々増え続けている。その事実を日常的に直視し、ウクライナの人々の声に耳を傾け続けることは、支援継続の必要性を再確認する上で欠かせない。

第二に、ウクライナの現状や日本の支援の実態を「正確に知ること」が欠かせない。ウクライナ支援への批判として「日本国内に必要な資金が回らない」という趣旨のものが後を絶たない。しかしその額は日本のGDP比0.2%で留まっている。このあたりは、日本の実際の経済力に照らしたバランス感覚のある議論が求められる。

また、「ウクライナは汚職国家であり、いかなる支援も無意味である」との声もある。同国に根強い汚職問題があることは事実だが、支援の継続に疑義を呈する以前に、同国における汚職やその他の社会問題の現状を、まずは「正確に」把握することが欠かせない。

この点においては、日本は他のG7諸国と共に、2015年以降「G7大使ウクライナ・サポート・グループ」において活動を行ってきた(※8)。この枠組みでは、汚職の状況を丁寧に調査した上で改善点をアドバイスし、改革のための必要な支援を提供している。こうした取り組みと、EUによるウクライナ加盟支援とも相乗効果を持ち、ウクライナは戦禍にありながら汚職への取り組みを強化し続けている。

それでも、かつてのイメージでウクライナという国を決めつける言説が日本において後を絶たないのは残念と言うほかはない。現状についてアップデートされた知識が共有されて初めて、支援の必要性に関する地に足のついた議論が可能なのではないか。

本稿で述べてきたとおり、これまでのウクライナ支援は日本の得意分野を活かして実施されてきており、ウクライナ側からも高く評価されている。この着実な実施と継続は日本外交の信頼性の向上に着実に貢献してきたともいえよう。

(※1) ^ 日本による支援と、日本が「ロシアによる『勝利』」を避けるべき理由について考察したものとしては、以下を参照。鶴岡路人「なぜウクライナ支援が必要なのか」国際情報ネットワーク分析 IINA、2024年2月7日

(※2) ^ 外務省「日本国政府とウクライナとの間のウクライナへの支援及び協力に関するアコード(「日・ウクライナ支援・協力アコード」)」、外務省ホームページ、2024年6月13日

(※3) ^ Ukraine Support Tracker, Kiel Institute for the World Economy, Data until 30th June 30th 2024, updated 6 August 2024

(※4) ^ 「カンボジア、日本と協力し、ウクライナへ地雷除去専門家を派遣へ」『ウクルインフォルム』2022年11月3日
日本の技術でウクライナの地雷除去へ! カンボジアで日本製の地雷探知機の研修を実施」JICAニュース、2023年3月3日

(※5) ^ “Ukraine’s Zelensky and India’s Modi hold first face-to-face since Russian invasion,” 20 May 2023

(※6) ^ 東野篤子「ウクライナが求める『平和の公式』という停戦条件」地経学ブリーフィング No.163、2023年7月10日

(※7) ^ 一例として、「日・ウクライナ支援・協力アコード」締結時におけるゼレンスキー大統領のX(旧ツイッター)ポストを参照。

(※8) ^ 「ウクライナ復興、日本企業に商機 松田駐ウクライナ大使」『日本経済新聞』2024年2月22日。

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