◆SNSを運営する事業者の対応を明確化
ネット中傷の対策法案を所管する総務省=東京・霞が関で
改正案は、名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害などの誹謗(ひぼう)中傷、著作権や肖像権を侵害するインターネット上の情報を対象に、事業者に削除申請窓口の整備や申請への対応状況の通知、削除基準の公表などを義務付けている。申請などへの対応状況は毎年1回の公表を規定。申請を受けて削除に応じるか1週間程度で判断するよう、同法を所管する総務省令で定める方向だ。 対象となる事業者は、X(旧ツイッター)やフェイスブックなどを運営する巨大IT企業が想定される。改正内容に沿って法律名も変更され、通称は「情報流通プラットフォーム対処法」となる。◆従来は削除に関する規定がなかった
総務省総合通信基盤局の担当者は「これまでSNS事業者に対し、削除に関する法律の規定はなかった。削除を義務付けると表現の自由の侵害や言論弾圧につながりかねないので、改正案では削除対応の迅速化と、行き過ぎた対応がなされないように透明化を求めている」と説明する。スマートフォンを手にする男性(イメージ写真)
ネット上の誹謗中傷は、深刻な社会問題となっている。総務省が委託運営する「違法・有害情報相談センター」の集計によると、センターに2015~22年度、寄せられた相談件数は毎年度5000件を超えている。22年度の相談件数は5745件で、うち「削除方法を知りたい」という相談は3852件に上り、3分の2を占める。被害が高止まりし、被害者から投稿削除に関する相談が多く寄せられている現状があるため、対応に乗り出した。 松本剛明総務相は3月、改正案閣議決定後の記者会見で、「人を傷つける誹謗中傷は許されない。法案の成立で、SNSなどのプラットフォーム事業者の対応が迅速化されて被害者の救済が進むとともに、安心・安全なインターネット利用環境が整備されるよう期待している」と強調した。◆衆院を通過、参院総務委員会でも可決
衆院の審議過程で日本維新の会が、削除状況について事業者に対応が適切だったか自ら評価し公表することなどを求める条文を加えた修正案を提出。その内容を盛り込んだ改正案が4月19日の本会議で全会一致で可決され、参院総務委員会でも今月9日に可決された。 衆院総務委で参考人として意見を述べた龍谷大の金尚均(キムサンギュン)教授(刑法)は「事業者に対する被害投稿の削除についてはこれまで法の規定がなく、SNS事業者の自主的対応に委ねられていた。今回、削除申請の窓口を作り、削除するための審査をさせる点で、従来の日本のインターネット対策から大きく一歩踏み出した」と指摘。「権利侵害情報の拡散を防ぐため、一秒でも早く削除してほしいと願う被害者の要望に具体的に対処できる可能性が出てきた。止まらない被害を食い止める上で、大きな前進だ」と話す。◆不特定多数をターゲットにした中傷対策は手付かず
一方で、法律で対象となるのは個人の権利侵害だとして、「ヘイトスピーチや被差別部落、LGBTQ(性的少数者)、障害者など共通の属性を持つ不特定多数の集団に対する対応が手付かずのまま残っている。こうした集団に対するネット上での排除的な言動のまん延は日本の大きな問題の一つで、欧州のデジタル・サービス法などに比べて対応が追いついていないことが課題だ」としている。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。