日本の政府開発援助(ODA)によるミャンマーでの橋梁(きょうりょう)建設で、クーデターを起こした同国軍の関連企業に、日系企業が多額の支払いをしていた問題が、国会で改めて取り上げられた。既に約200万ドル(約3億1000万円)を支払ったことが判明していたが、さらに支払いが残っているという。その金額など不明瞭な部分が多い。日本政府の対応は適切だろうか。(山田雄之、北川成史)

23年12月、バゴー橋がほぼ完成し、式典で金のナットを締めるミンアウンフライン国軍総司令官(中)=国軍総司令官府のホームページより

◆クーデター前合意のプロジェクト

 「まだ留保金の支払いがされておらず、役務完了時に支払われると承知している」。外務省の日下部英紀国際協力局審議官は20日、参院決算委員会で、「バゴー橋建設事業」を受注した「横河ブリッジ」(本社・千葉県)から、国軍系企業「ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)」への下請け代金の支払いが残っていると明らかにした。石橋通宏氏(立憲民主)の質問に答えた。  同事業は、ミャンマーの最大都市ヤンゴン中心部と、郊外のティラワ経済特区を結ぶ橋を造る円借款のプロジェクト。クーデター前の2016年に両国政府間で合意された。横河ブリッジはMECと資材調達などの下請け契約を結んだ。  MECは21年2月のクーデター後、欧米の制裁対象となったが、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、横河ブリッジがMECに22年7月~23年1月に計約200万ドルを支払っていた事実を明るみに出した。

◆国際人権団体の指摘後も続く

 20日の委員会では上川陽子外相が「MECの請負業務は23年12月に完了し、進捗(しんちょく)払いしたと報告を受けている」とも説明した。これは23年1月のHRWの指摘後も、下請け業務の進捗に伴う支払いが続いており、問題なく完了した場合に払う「留保金」も残っていることを示す。  クーデター後、既存事業を含めて、軍政下でのODA中止を求める声がミャンマー人らの間で上がっている。だが、上川外相は「日本企業が契約を一方的に解約すると、多額の違約金支払いを求められる可能性がある」と答弁。ただ、違約金の規模などの説明は避け、石橋氏は「ブラックボックスだ。国民への説明にならない」と批判した。

◆「プロパガンダに利用」

 MECに支払われた金額や留保金額について東京新聞「こちら特報部」は外務省に問い合わせたが「企業間の秘密契約のため申し上げられない」。横河ブリッジは取材に「個別案件のためお答えは差し控える」との回答だった。  橋は完成間近。主要部分の工事が完了した23年12月の式典にはクーデターを主導したミンアウンフライン総司令官が出席し、橋で金色のナットを締めた。HRWの笠井哲平アジア局プログラムオフィサーは「プロパガンダに利用された。日本は間接的に国軍に加担した」と批判する。

◆「日本の資金が軍に流れることを心配」

 ミャンマーの状況は悪化している。人権団体によると、国軍の弾圧による死者は5000人超に上る。民主派が樹立した「挙国一致政府(NUG)」のゾーウェーソー保健・教育相は来日中の22日、超党派議連が国会内で開いた会合で「軍系企業を通じ、日本の資金が軍に流れることを心配している」とくぎを刺した。  この問題を巡り、岸田文雄首相は昨年2月の衆院予算委で「適切に対応する」と述べた。だが、言葉通りの状況だろうか。  HRWの笠井氏は「横河ブリッジとMECの契約の前提は、日本政府が前政権と結んだODA事業だ。ODAには国民の税金も含まれている。違約金や留保金の額が開示されなければ国会でも議論ができない」と指摘。「人権外交の理念に基づき、ODA事業を停止し、留保金は支払ってはならない。他のG7(先進7カ国)と同様に経済制裁を科すなど、毅然(きぜん)とした態度を取るべきだ」と訴えた。 

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