川面を悠々と泳ぐ魚やカメなど河川の生き物たちを見ながら、ふと疑問がわいた。大雨で川が氾濫した時、生き物たちはどこへ向かうのか。ヒントは太公望の定説にあった。
「釣り人の間では、大雨などで河川が増水すると、魚は本流から流れの弱い支流に逃げ込むと語り継がれてきました」。こう話すのは、北海道大の小泉逸郎准教授(動物生態学)。川が氾濫すると、予想外の釣果を求めて出かける釣り人もいる。ただ、大雨や洪水で川が氾濫している最中に調査することは難しく、科学的に証明されてこなかった。
小泉さん率いる研究グループは2012年6月、魚が支流に避難する仮説を実証すべく、十勝川水系の札内川ダム(北海道中札内村)で調査に臨んだ。札内川ダムは、河川環境の改善などを目的に、人工的に洪水を起こす試験放水を実施している。本流の水量が最大20倍以上増えるこの機会を利用して、ダム放水口から10キロ以内の四つの支流で、放水2日前と放水中、放水2日後それぞれの魚類の個体数を調べた。
調査の結果、一つの支流では増水前にいなかったサケ科の絶滅危惧種オショロコマ11匹を放水中に捕獲。放水2日後には1匹を除いていなくなった。別の支流でも、増水時のみヤマメやニジマスが捕れたが、いずれも放水2日後にはいなくなった。増水時に魚は支流に避難するという仮説を裏付ける結果となり、日本動物学会の学術誌に発表した。
一方で、30センチを超える大型の魚は捕獲されなかったことから、研究グループは「大型個体は増水した本流で耐えることができるのでは」と推察した。小泉さんは「魚の種類ごとに逃げ込みやすい支流の特徴が分かれば、河川管理の一助になる」と話す。
では、カニやカメ、水生昆虫などの生き物はどのように過ごすのか。日本河川協会は「川の水が増えても、水の中にすんでいる虫などの生き物は、水辺に生えている木や草のまわり、川底の石の下など水の流れのゆるやかな場所で川の水が少なくなるのを待っている」としている。【田中韻】
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