KDDIがコンビニのデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑む。5000億円弱を投じるTOB(株式公開買い付け)でグループに引き入れるローソンと組み、店舗運営の効率化や売上拡大につなげる。KDDIが蓄積してきた通信、金融、人工知能(AI)といった幅広い最新テクノロジーの集大成になる。
5月、KDDIが2025年に移転する新本社(東京・港)に入るローソンの構想を公表した。キーワードは「未来」だ。
店舗にはスマートフォンで商品バーコードを読み取ってキャッシュレスで精算する「ウオークスルー決済」を導入。天候や季節などに応じて商品の価格を変えるダイナミックプライシングも取り入れる。値下げした際はアプリを通じて消費者に通知する。
あらゆるモノがネットにつながるIoT技術で商品の売れ行きを把握し、欠品しそうな際はロボットが補充する。オフィスビルの防犯カメラやエレベーターのシステムと連携し、ロボットが本社にいる従業員に購入品を届ける仕組みも検討する。
一時話題を集めた米アマゾン・ドット・コムの「アマゾンゴー」は自動改札機のようなゲートで決済するレジのない店舗だ。これに対してKDDIの構想が実現すれば、陳列や調理、清掃、配送を含めて省人化する高効率の店舗になる。
描く未来はスマホやロボットの活用にとどまらない。地方の店舗を中心にリモート接客を構想する。ニーズごとにつながる窓口を変え、スマホの契約を受け付けたり、業務提携するスタートアップの協力を得て薬剤師が服薬相談にのったりする。
防災拠点として活用する計画もある。KDDIが提携する米スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」の端末を置き、災害時でも通信機能を維持する。出資先である米スカイディオのドローンも配備し、被災状況の確認などをできるようにする。
KDDIの高橋誠社長は「わくわくすることを提案し続ける」と力を込める。TOBは4月に成立し、三菱商事と50%ずつを出資する持ち分法適用会社にする。共同経営が始まる9月に向け、構想段階のアイデアの具体策を詰めていく。
国内のコンビニ店舗数は6万店弱で足踏みが続く。少子化で今後も大きな市場拡大は期待しにくい。とりわけローソンは平均日販や店舗数で、ライバルのセブンイレブンやファミリーマートに水をあけられている。
TOBを発表した2月の記者会見で、同席した三菱商事の中西勝也社長は「ローソンの価値向上に悩んでいた」と明かした。ローソンの定位置となった業界3位からの脱却に向け、デジタル技術を生かした顧客との新たな関係づくりは急務になる。
KDDIにとっても過去最大規模の資金を投じる一大勝負だ。ローソンの引き入れによる利益の単なる「足し算」では物足りない。本丸の通信事業や金融事業の成長に弾みをつける「掛け算」の効果が求められるだろう。
KDDIがローソンと描く未来は魅力的で、消費者や地域社会に新たなコンビニ像を提示する可能性を秘める。同時にその未来は5000億円投資の成果を厳しく問われる難路でもある。
(桜木浩己)
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