知床世界自然遺産地域科学委員会で環境省担当者から説明を聞く中村太士委員長(中央)=札幌市中央区で2024年6月7日午前11時6分、谷口拓未撮影

 世界自然遺産・知床(北海道斜里町、羅臼町)で携帯電話がつながるようにしようと進められている基地局の整備を巡り、環境省は7日、専門家が科学的見地から管理を助言する「知床世界自然遺産地域科学委員会」の臨時会合を札幌市内で開いた。委員からは環境への影響を評価する事前調査の不十分さを指摘する声が上がった。環境省は指摘を受けて、工事を担当する通信事業者に対して再調査を要請し、終了まで工事の見合わせを求めることを決めた。

 2022年4月に知床沖で発生した観光船沈没事故後、船の通信手段が課題となり、国や地元などは知床半島の4カ所に基地局を整備する計画を進めてきた。このうち知床岬での太陽光パネルを伴う発電施設(約7000平方メートル)の計画が今年5月に明らかになると、自然保護団体などから反対意見が噴出。工事予定地近くにかつてオジロワシが使った営巣木も見つかったため、工事が中断し、臨時会合の開催が決まった。

 環境省はこの日、動物への影響を調査していなかったことを認め、「工事は地表面の改変が大きく、植物への影響を調べた。大半がササ原で動物の調査を求めなかった」と説明した。科学委員会に計画の詳細を報告しなかったことについては「(事業許可までに)専門家の意見を聞くことが制度化されていない」とした。

 中村太士委員長=北海道大名誉教授=は「調査が不十分。OUV(顕著な普遍的価値)に影響を与えかねないリスクを考えると、工事を中断して調査し、地元で基地局の必要性も含めて議論してほしい」と述べた。工事を担当するKDDIは「環境省の指示に従い、対応を進める」とコメントした。【谷口拓未】

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