知床世界自然遺産地域科学委員会終了後に記者会見する中村太士委員長(左)と環境省釧路自然環境事務所の岡野隆宏所長=札幌市中央区で2024年6月7日午後0時27分、谷口拓未撮影

 世界自然遺産・知床(北海道斜里町、羅臼町)の携帯電話基地局整備を巡り、7日に札幌市内であった知床世界自然遺産地域科学委員会で、委員からは知床岬周辺の環境への影響から事業の規模や必要性を疑問視する声が上がった。環境省は「公益性」を事業を許可した理由に挙げる。公益性は環境保全に優先されるものなのかも議論された。【谷口拓未】

 国立公園は厳密な管理が求められる。「知床国立公園管理計画」は、アンテナや鉄塔の新設を原則として認めていない。一方、「公益上必要と認められるものについては検討する」との規定もある。

 知床岬のある半島先端部は携帯電話の不感地帯だ。環境省は事業の公益性について、漁業者の安全確保▽地元自治体の要望▽関係者が一堂に会する推進会議での合意――などを挙げる。

 この場所で基地局を稼働させるには、電源にする太陽光発電施設(約7000平方メートル)が必要となる。環境省は「付帯的な施設で、必要最小限の規模」との見解だ。太陽光という選択は、景観、二酸化炭素(CO2)排出量などを加味した結果という。

環境省に対して意見を述べる知床世界遺産自然地域科学委員会の委員ら=札幌市中央区で2024年6月7日午前11時6分、谷口拓未撮影

 一方、この日の会合で、委員からは「事業で得られる公益と知床岬の自然、価値の損失はどのように比較したのか」と公益性の重みに疑問も投げかけられた。環境省の担当者は「海域で活発な漁があり、世界遺産の構成資産に漁業も包含されている。(通信環境整備は)漁業者の希望。生命に関わることも考慮した」と回答。委員は「両立できる方法の模索はできる」とクギを刺した。

 計画によると、並べられる太陽光パネルは264枚で蓄電池も設置される。日照が1週間なくても稼働できる設備になるが、規模の縮小を検討すべきという意見も出た。

 科学委終了後に記者会見した中村太士委員長(北海道大名誉教授)は「OUV(顕著な普遍的価値)が守られることも世界、日本にとって大事で公益性だ。OUVに影響を与えかねないリスクを考えると、工事を中断して調査し、地元で基地局の必要性も含めて議論してほしい」と強調した。

 制度上の定めがないため、事業が決まる前の23年度の科学委に事業の詳細な説明はなく、環境への影響が議論されることもなかった。中村委員長は「報告事項と受け取ってしまった。意見を述べるのが妥当だった。対応が遅きに失した」と自戒した。この問題は今後、科学委で再び議論するという。

 環境省は科学委の指摘を受け、工事を担当するKDDIに対して希少動物への影響の調査を要請し、終了まで工事の見合わせを求めることを決めた。KDDIは7日、「環境省の指示に従い、対応を進める」とコメントした。

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