屋久島に自生する高さ2~3センチのキク科のイッスンキンカ。島外の比較個体は高さ数十センチまで成長する=高橋大樹・東北大大学院特任助教提供
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 鹿児島県の屋久島には植物学者の間で「奇妙な現象」とされる法則がある。約80種類もの植物が一斉に小型化しているのだ。島外では普通の大きさの植物がなぜ小さくなるのか――。謎に包まれた法則を東北大などの研究チームが解き明かし、ある動物に由来する可能性を明らかにした。

 同大などによると、島内では茎や葉の長さが5センチに満たない「ミニチュア植物」が標高の高い地域を中心に約80種類分布している。屋久島で一部の植物が極端に小型化したことについて、植物進化学の分野では以前から不思議な現象として語られてきた。これまでに土壌の栄養不足や低温、日照不足などの説が唱えられたものの、詳細な検証はされてこなかった。

屋久島に高密度で生息するヤクシカ=高橋大樹・東北大大学院特任助教提供
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 その謎を解こうと東北、京都、福島の3大学による研究チームは、屋久島に生育する「ヤクシカ」に着目した。シカにとって小さな植物は食べにくく、「奈良のシカ」で有名な奈良公園(奈良市)などでもミニチュア植物の存在が報告されていたからだ。研究チームは、ヤクシカの好き嫌いに合わせて計40種の植物計1908個体の茎や葉のサイズを測定し、島内外での差を調べた。

 すると、ヤクシカの好む植物は島外の半分から10分の1程度の大きさだった一方、ヤクシカが嫌う植物の大きさは島外と大差なかった。更に島内外の植物のゲノム情報を分析したところ、ミニチュア植物は、屋久島と九州や四国が陸続きになっていた最後の氷河期(1万1500~11万年前)以降、独自に進化したとみられることがわかった。

 研究チームは、島にヤクシカの天敵がおらず高密度で生育しているため、植物がシカに食べられにくいよう小型化を進めたと分析。奈良公園などと違い、海で隔離された屋久島の環境によって進化が妨げられなかったことで、小型化がより促進されたとみている。

 研究チームの高橋大樹・東北大大学院特任助教(植物分類学)は「シカとの関係で植物が進化した特異な生態系を明らかにできた。今後は植物を小さくする遺伝子を特定し、花卉(かき)栽培の分野で新品種の開発に応用できないか模索したい」と話した。

 研究は植物生態学の専門誌「Journal of Ecology」に5月8日に掲載された。【木許はるみ】

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