国立がん研究センターは11日、微小な膵臓(すいぞう)がんを見つけ出す新たな画像診断技術の臨床試験(治験)を始めたと発表した。1センチメートル未満の小さな腫瘍の検出を目指す。膵がんの早期発見に役立つ可能性がある。
膵臓は胃の後ろにある臓器で、食べ物を消化する酵素や血糖値を下げるインスリンなどを分泌する役割を担う。膵がんは難治性で5年生存率が約13%と低いが、早期に発見して治療できれば生存率は5割程度まで高まる。
現状、コンピューター断層撮影装置(CT)や超音波内視鏡などの検査が一般的だが、1センチメートル未満の小さな腫瘍を見つけることは難しい。初期の膵がんは自覚症状もほとんどないため、手術が難しい段階にまで進行する患者が少なくない。
研究チームは膵がんのがん細胞表面にあるたんぱく質「EGFR」だけに強く結合する抗体を使って、陽電子放射断層撮影装置(PET)検査に応用できる薬剤を開発した。マウスで実験したところ、従来のPET検査では捉えられなかった3ミリメートルの微小な膵がんを検出できた。サルなどの動物実験で安全性も検証し、ヒトでの治験を始めることにした。
国立がん研究センター中央病院の肱岡範医長は「これまで微小な腫瘍の発見は検査担当者の経験や技術に依存していた。新たな検査法が開発できれば診断技術の均てん化(標準化)にもつながる」と話す。転移したがん細胞の発見にも役立つと見込んでいる。
今回の第1相治験は膵がんと強く疑われる患者7〜18例で実施し、2025年9月までに完了する予定だ。開発した薬剤のヒトでの安全性や第2相治験に向けた投与量などを検討する。
将来的にはがんの治療薬として応用する治験も実施したい考えだ。薬剤に含まれる銅の放射性同位体はPET検査での検出用だけでなく、がん細胞に対して放射線を発して攻撃できるとした研究もある。診断と治療を同時にできる医薬品の開発を目指す。
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