国連開発計画(UNDP)は、日本を含む世界77カ国で実施した気候変動についての意識調査を発表した。72%が化石燃料から再生可能エネルギーへの迅速な移行を支持し、自国に対策の強化を望む人は80%に達した。同種の調査としては「最大規模」をうたう結果からは、日本について他国に見られない、ある特徴も浮かび上がった。
調査では世界全体で53%が、前年に比べて気候変動を心配するようになったと回答した。後発開発途上国や女性でより高い傾向がみられた。また69%が自分や家族が住んだり働いたりする場所、購入する商品の選択において、気候変動が影響を与えたと答えた。自然災害の影響を受けやすい農業や畜産業などの比重の高いグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国が上位を占めた。
通商問題や地政学的な対立と切り離して気候変動対策で協力することを望む人は86%に上った。UNDP気候変動政策アドバイザーのキャシー・フリンさんは「分極化する世界においても、気候変動を多くの人が優先していることが明らかになった。世界の指導者たちは統一的なメッセージに耳を傾けるべきだ」と訴える。
過去の同種の調査では、気候変動に対する日本の関心の低さが表れることがあった。しかし、今回は世界平均を14ポイント上回る67%が前年に比べて気候変動を心配するようになったと回答し、高い危機感を共有していた。政府に対策の強化を望む人も74%に達した。
他方で目立ったのは、いくつかの質問で「わからない」と回答した人の割合の多さだ。
「あなたの国は気候変動にどの程度対処しているか」という問いでは「とても良い」「まあ良い」は計19%、「とても悪い」「まあ悪い」は計41%で、「わからない」は18%だった。「わからない」は国別ではロシア(19%)に次ぐ高さで世界全体では4%だった。
今回の調査結果について、気候科学の専門家でメディアを通じた情報発信を続ける東京大の江守正多教授は「あなたの国で気候変動対策に最も影響を与えたのは誰か」との設問で、日本では50%以上が「わからない」と答えた点に着目した。世界全体では11%だった。
江守さんは「日本人は自分の考えに自信が無く、わからないと答えがちという傾向もある」と前置きした上で、「政府や企業や市民団体が気候変動対策に取り組んでいるという認識を持つ機会が無い人が、日本には多いことを表しているのではないか。誰かが取り組まなければいけないという認識も薄い人が多いのかもしれない。日本で気候変動が選挙の際にほとんど話題にならないことも、その傍証になっていると思う」とみる。
調査は世界人口の約9割が暮らす77カ国の7万5000人以上を対象に、無作為に携帯電話で気候変動に関する生活体験や対応などに関して、共通する15の質問を聞いた。調査方法の策定にも携わった英オックスフォード大のスティーブン・フィッシャー教授によると、「最貧層の人々を含む社会から疎外されたグループ」を含めるため87言語を使用した。9300人以上の回答者は学校で教育を受けたことがない人たちだったという。フィッシャーさんは「めったに聞かれることがない声を権力や責任ある人々に届けるのは重要だ」と大規模調査の意義を強調する。【ニューヨーク八田浩輔】
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