「女性科学者に明るい未来をの会」(中西友子会長)は15日、自然科学分野で優れた業績を上げた女性科学者をたたえる、今年の猿橋賞を京都大教授の緒方芳子さん(47)に贈ると発表した。
専門は量子統計力学で、受賞テーマは「量子多体系の数学的研究」。物理学の世界で量子の動きに法則性を見いだす量子力学を、数学的に説明した業績が評価された。
選考委員長の岡良隆・東京大名誉教授は「物理学者が直感的に予想して議論されてきたテーマのいくつかを、数学的に正しいということを厳密に証明した。国際的な評価が高い」などと選んだ理由を説明した。
猿橋賞は地球化学者の猿橋勝子さん(1920~2007)が1980年に創設し、自然科学分野の女性に毎年贈られている。今年で44回目となり、数学の分野での受賞は5人目という。50歳未満を対象とし「女性研究者の登竜門」と言われ、緒方さんは記者会見で「猿橋賞は一般の人にも知られている賞。数ある分野の中でも数理物理学を選んで頂き光栄です」と述べた。
贈呈式と記念講演は5月11日に日本工業倶楽部会館(東京都千代田区)で開かれる。
圧倒的な男性社会 性別での苦労は「特に無い」 それでも……
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緒方さんは男性が圧倒的多数を占める数学の世界で異色の存在だ。2021年には数理物理学に大きな貢献をした人に贈られるポアンカレ賞を日本人女性で初めて受賞。昨年12月には京都大数理解析研究所でも女性初の教授に就いた。研究生活を振り返り、性別の違いで苦労したことは「特に無い。ラッキーだったのかも」と言う。
新天地は「1日24時間、研究だけを考えられる感動的な環境」
それでも、論文を他の研究者と連名で書く「共著」は少なく、多くを1人で手がけてきた。一つ前の世代を見ていて、男性研究者との共著だと「この人は業績に対し(仕事を)やってないかと思われるかも、という心配があった」からだ。最近は女性研究者も増え、「話しているとこちらが元気をもらえる」「これからは共著を目指したい」とも話す。
高校まで理数系の科目は「得意だと思ったことはなく、ただ苦手ではなかった」。大学院の修士をとる頃は就職を考えたこともあった。企業の説明会に参加した際、「就職にせよ研究にせよ、どこかでがんばらなければならないなら、研究でがんばりたい」と思い、研究者への道を選んだ。
在籍して4カ月になる京大数理研は「1日24時間、研究のことだけを考えられる感動的な環境」という。研究の突破口を見つけると「スキップしたくなるほどにうれしくなる」と笑顔を見せた。(川原千夏子)
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〈おことわり〉当初配信した記事で、数学者として2人目の受賞としていましたが、5人目の誤りでした。記事と見出しを修正しました。
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