この10年で倍増も、目標達成には課題山積

─2021年に策定された現行の第6次エネルギー基本計画では、30年の電源構成で再生可能エネルギー(水力含む)を36~38%にするとの目標が掲げられている。22年度の実績は21.7%だが、ことし基本計画改定を控え、現状をどう見ているか。

井上 博雄 2011年の東日本大震災による福島第1原発事故の以前、再生可能エネルギーの割合は10%前後だった。その後、固定価格買い取り制度(FIT)を導入したことで、現在は20%超と倍増している。30年の目標値は、これをまた倍の割合にするというものだ。現状認識としては、かなりのスピードで再エネの導入は拡大していると考えている。特に太陽光発電は11年度の0.4%が9.2%(22年度)まで急増している。現在、日本の再エネ導入容量は世界6位、太陽光発電容量は3位となっている。平地面積あたりでの太陽光発電容量は、ドイツを抜いて世界1位の水準だ。

再生可能エネルギーの電源構成比推移

2011年度 2022年度 2030年度目標
再エネ全体 10.4% 21.7% 36-38%
うち太陽光 0.4% 9.2% 14-16%
風力 0.4% 0.9% 5.0%
水力 7.8% 7.6% 11.0%
地熱 0.2% 0.3% 1.0%
バイオマス 1.5% 3.7% 5.0%

出所:資源エネルギー庁資料

それでは、この30年の目標値に届きそうかという点については、率直に言って容易ではないと思っている。いま直面している課題の一つが、「地域との共生」だ。例えば太陽光は平地の利用が世界トップ水準まで進み、これから斜面や森林にも設置が検討される。そこで安全とか景観という観点から、地域の懸念が高まっているという実態がある。このため昨年の法改正(再エネ特措法)で、地域での合意形成を事業者に求める制度措置の強化を図っている。

二つ目の課題は、発電コストの削減。現状は電気料金の中で「賦課金」を徴収して対応しているが、やはり「高い」という批判はある。三つ目は、再エネによる電力を有効に使うための送電網の整備だ。この費用負担は、特定地域に偏らないものでなくてはならないが、その制度改革も含めてスピーディーに進めていくことが課題だ。四つ目は、「調整力」、つまり再エネによる発電を無駄にしない蓄電池、揚水発電所などの導入拡大だ。

最後に、国産イノベーションの加速を課題に挙げたい。太陽光の発電パネルは現在ほとんどが海外製で、賦課金の多くが海外のパネルメーカーに流れているとの批判もある。日本主導のイノベーションで「状況を立て直したい」との議論が出てくるのももっともだ。有望なシード(種)と考えているのが、まずペロブスカイトという電池だ。また、もう少し時間をかけて頑張ればというのが、浮体式の洋上風力発電。この二つは日本のテクノロジーで「勝ち筋が描けるのではないか」と思っている。

定置用蓄電池導入に手厚い支援

─4番目の課題として挙げた「調整力」のうち、カギとなる蓄電池の動向についてどう見ているか。

井上 世界中で今、どんどん新しい動きが進んでいる。蓄電池については導入にあたって補助金を入れるだけではなく、運用事業者の収益機会の拡大にも踏み込んだ取り組みを政府として進めている。

具体的には、脱炭素電源や蓄電池などの調整電源も調達できる卸電力市場や需給調整市場などの電力市場の環境整備を行っている。蓄電池事業者が電気の安い時間帯であるお昼に充電し(昼間は太陽光発電が大量に稼働して価格が低下するケースが多い)、高い値段になる夜間に放電すると利益が出る。つまり蓄電池が「もうけられる」環境整備を行っている。経済的にも利益を上げられる可能性が出てきたことで、蓄電池ビジネスへの意欲は拡大している。

蓄電池導入の動きをさらに後押しするため、今年初めて実施した「長期脱炭素電源オークション」でも蓄電池を対象電源とした。これは初期の設備投資だけではなく、蓄電池の維持に必要な人件費などの固定費も20年にわたって事業者に支払われるという手厚いものだ。

「GX経済移行債」を活用し、蓄電池メーカーへの設備投資支援も行う。この支援はリチウムイオン電池が中心だが、系統用蓄電池では日本企業が強い部分もある。住友電工のレドックスフロー電池や日本ガイシのNAS電池などだ。リチウムイオン電池より長い時間充放電できることが特徴。車載用の蓄電池としては向いていないが、このような系統用の蓄電池がどんどん出てくると、場合によっては日本の「勝ち筋」になる可能性があると期待している。

有望な「折れ曲がる太陽光パネル」


インタビューに答える井上博雄氏(撮影・nippon.com編集部)

─最近大きな話題となっているペロブスカイト太陽電池の研究開発状況について教えてほしい。

井上 フィルム型とガラス型があって、日本企業が特に強いのはフィルム型。薄いし軽いので、今まで置けなかった場所に置ける。日本のような国土の狭い国には非常に都合がいい。東京都千代田区内幸町の再開発事業で、2028年度に完成する高層ビルの壁一面にペロブスカイトを入れる計画がある。このビル1棟で1メガワットの発電容量があり、メガソーラー発電機能を実装した高層ビルとなる予定である。ぺロブスカイト太陽電池の特性を生かして、太陽光パネルを設置できる平地が少ないという課題が解決できる。

もう一つの長所は、主な原材料がヨウ素であること。日本はヨウ素の世界第2位の産出国で、国産資源で作れる。いままでの太陽光パネルはシリコンで作られていて、これはほとんど中国産出だ。ペロブスカイト太陽電池は、横浜桐蔭大学教授の宮坂力先生が発明した日本発の技術で、積水化学やエネコート・テクノロジーズなど、いろんな企業が政府とグリーンイノベーション基金を活用しながら開発、実証を行ってきた。フィルム型は、世界で日本がもっともリードしていると思う。この量産化や普及拡大に向け、政府も総合的にできる政策は全てやっていく意気込みだ。


ペロブスカイト太陽電池を手にするエネコート・テクノロジーズの加藤尚哉社長=2023年9月、京都府久御山町(共同)

洋上風力発電のポテンシャル

─浮体式の洋上風力発電について、先ほど「時間がかかるけれども有望」と言及された。現状と展望を伺いたい。

井上 日本にとって、浮体式の洋上風力はすごく大事なものだ。なんといっても、日本は領海と合わせて世界第6位の広さの排他的経済水域(EEZ)を持っている。一方で、そのEEZの水深は深いので、今までの着床式では設置できない。浮体式が実用化できれば、洋上風力発電は大いに期待できるので、必要性としては高い。可能性としても、日本は造船、浮体の技術はもともと強い。

浮体式洋上風力は、ただ浮体の上に今までの風車を搭載すればいいというわけではない。浮体は揺れるので、今までの風力とは全く違うシステムを導入する必要があるのではないかと思っている。日本の風車メーカーは大型風車の製造から撤退しているが、まだ技術者はおられるしデータ・経験もたくさん残っている。浮体と風車が一体となった新しいシステムを日本ならではの力で作り上げていく余地があるのではないかと思っている。

実は米国もこの分野で日本に期待していて、4月の日米首脳会談でも両国の連携で合意した。欧州も同様の意向で、日米欧で連携してやりたい。時間がかかるというのは、やはり現状は発電コストが高いという事情だ。競争すべきところ、協力すべきところがそれぞれあって、協力が進む中で日本にとってのメリットも見いだせるのではと思う。

「水素社会」に向けた国際競争

─最後に、脱炭素社会に向け注目される水素エネルギーの取り組みについて伺いたい。

井上 今年の5月に国会で、水素社会推進法が成立した。化石燃料に比べてコストが高い水素は「ニワトリと卵」の状況(編集部注:利益が出ない状況では先行投資がしづらい)だが、これを解決すべく3兆円のGX予算を確保し、水素と化石燃料の価格差を15年間支援する。なぜ水素に注力するかというと、水素は、鉄や化学の製造プロセス、工場の熱需要の他、トラックや船などのモビリティ分野(代替技術が少なく転換が困難な分野)で使われている化石燃料を非化石化する上で必要不可欠であり、また、液化天然ガス(LNG)成分火力発電での水素の混焼や石炭火力発電でのアンモニアの利用法としてより発電のクリーン化にも貢献する。GX時代のエネルギーとして、利活用の広がりが期待できるので、世界でも注目を集めており、わが国でも本腰を入れて取り組んでいく必要がある。

水素関連の技術は、トヨタをはじめ、日本企業が強みを持つ分野が多い。世界の水素市場はまず欧州を中心に立ち上がっていくと見込まれるが、そこでのシェアを取りに行くのは日本経済の成長という意味でも必要なことだと考えている。水素を「つくる」水電解装置や電解膜、「はこぶ」海上輸送技術、「つかう」自動車や発電機など、それぞれ世界でも競争力を持つ企業が日本には多数存在する。これを後押しし、水素エネルギーに対応するのは産業政策としても意味がある。

水素の社会実装化は欧州が進んでいると言われるが、実際には現時点でその差はほとんどないと考えている。先ほど言及した水素社会推進法では価格差に着目した支援制度に加え、拠点整備支援制度や高圧ガス保安法の特例制度などを成文化しており、こうした制度を用意している国は日本以外にはない。果敢に投資に挑戦して、水素社会における世界市場で取れるものは取りに行く必要がある。これからが勝負だ。

(インタビューは2024年7月9日に実施した)

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