京都大学の福田晃久准教授やアークレイ(京都市)などの研究チームは、血中に含まれる「マイクロRNA(リボ核酸)」という微小な物質をもとに早期の膵臓(すいぞう)がんを見分けられる人工知能(AI)を開発した。膵臓がん患者と健常者のマイクロRNAの発現状態を学習させ、早期の膵臓がん患者でも既存の検査よりも高精度で見分けられる。数年後の実用化をめざす。

膵臓がんは黄疸(おうだん)や腹痛などの症状が出ることが少なく、自覚しないうちに進行してしまう。診断時には半数以上がほかの臓器に転移しており、全てのがんの中で5年生存率が最も低い。ただ、がんが浅い場所にとどまるステージ0や直径10ミリメートル以下のステージ1で発見できれば生存率は高く、早期の診断が重要となる。

現状の膵臓がんの検査では、血中の「CA19-9」というたんぱく質の量を主に指標に使っているが、早期の患者では陽性率が低い。デンマークのコペンハーゲン大学などの研究から、マイクロRNAの発現の状態から患者を高精度に識別できることが知られていたが、早期の患者は絶対数が少なく十分に調べられていなかった。

研究チームは今回、14の病院から早期を含む膵臓がん患者212人と213人の健常者の血液を採取し、マイクロRNAのデータを集めた。約2580種類のマイクロRNAの中から患者と健常者で発現量の差が大きな100種類を選び出し、発現の状態をディープラーニング(深層学習)で学ばせ、膵臓がん患者を診断するAIモデルを作った。

研究成果を発表する京大の福田晃久准教授(京都市)

従来指標のCA19-9で患者の識別を試みると、ステージ0の患者は全く見分けられず、ステージ1の患者は29%の精度でしか識別できなかった。一方、開発したAIではそれぞれ50%、63%の精度で識別できた。さらにマイクロRNAとCA19-9を組み合わせたAIモデルを作ったところ、ステージ1の患者を識別する精度が83%に上がったという。進行した膵臓がんでは、CA19-9と精度はあまり変わらなかった。

今後はさらに患者のデータを大規模に集め、AIモデルを改良したうえで薬事承認を取得し「数年後をめどに健康診断などでの実用化をめざす」(福田准教授)。成果は28日、英医学誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー」に掲載される。

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