宇宙船外に身を乗り出す船長のアイザックマン氏(スペースXの中継映像)

【ヒューストン=花房良祐】起業家イーロン・マスク氏が率いる米スペースXは米東部時間12日、宇宙空間における船外活動を実施した。国の機関に所属しない民間人では初めて。独自開発した宇宙服の性能を確かめたことで、火星に人類を送り込むという創業来の目標に向け前進した。

民間初の船外活動を含む今回の計画の名称は「ポラリス・ドーン」。火星への人類の移住を目標に掲げるスペースXにとって、独自開発した宇宙服の性能などを検証する社運を賭けたプロジェクトの一つだった。

米起業家で大富豪のジャレッド・アイザックマン氏が資金を提供し、自ら船長を務めた。スペースXは費用を明らかにしていないが、ロイター通信は数億ドル(数百億円)の可能性があると報じている。10日に打ち上げた宇宙船「クルードラゴン」には元米軍パイロットとスペースX社員2人も搭乗した。

クルードラゴンにはエアロック(船内外の気圧差を調整する小部屋)がないため、乗員4人が宇宙服を着用して船内の気圧を下げ、真空状態とした。アイザックマン氏とスペースX社員は命綱をつけ、交互に宇宙船の開口部から船外に半身を乗り出した。

これまで宇宙空間における船外活動は米航空宇宙局(NASA)など国家機関に所属する宇宙飛行士が担ってきた。宇宙遊泳には飛行士の生命を維持する装置が不可欠だが、NASAが採用する宇宙服はおよそ40年前に開発されたものだ。新型を開発する計画は10年以上かかっている。

スペースXは関節の可動域が大きく船外で作業がしやすい宇宙服を開発し、今回の計画で初めて使用した。米メディアによると開発期間は2年半だったという。マスク氏の知名度を武器に、世界中から優れた人材を集めるスペースXの開発スピードは国家機関を上回りつつある。

船外活動に先立つ11日には高度約1400キロメートルに達した。これより人類が地球から遠ざかったのは70年代の「アポロ計画」だけだ。NASAが1966年の「ジェミニ計画」で記録した約1370キロより遠く、有人の軌道周回の高度記録を更新した。

船長を務めたアイザックマン氏は決済システム企業を起業して成功し、財をなした。スペースXは21年には同氏の資金提供によって初の民間人だけの宇宙飛行に成功している。同社は年内にはマルタ島の富豪の資金提供によって、クルードラゴンを使って北極と南極の上空を通過する「極軌道」の有人飛行に初めて挑む。

NASAからの受託開発や衛星の打ち上げに加え、アイザックマン氏をはじめとする富豪からの資金提供によってスペースXは研究開発を加速させている。6月には月面着陸や火星探査に使う大型宇宙船「スターシップ」を地球の周回軌道に投入して帰還させる試験飛行に成功した。

2002年のスペースX設立から20年超が経過し、マスク氏は惑星移住という目標達成への自信を深めつつある。9月7日にはX(旧ツイッター)上で「2年後に火星へスターシップを(無人で)打ち上げる」と表明した。その2年後には有人で火星へ向かうという。約20年後には火星に街を建設するという計画も示した。

米国では民間による宇宙開発が勢いづいている。米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が設立した米ブルーオリジンは10月にも再利用が可能な大型ロケットを打ち上げる。成功すればスペースXに次ぐ快挙となる。

一方、NASAとともに宇宙開発を担ってきた老舗企業は開発競争に取り残されつつある。航空宇宙大手の米ボーイングは6月に新型宇宙船「スターライナー」を打ち上げて国際宇宙ステーション(ISS)に飛行士を送り込んだものの、推進装置などに不具合が発生した。同社はその後、無人で宇宙船を地球に帰還させた。

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