ファーウェイが24年8月に発売した折り畳みスマホ「nova Flip」

上海市の中心部にある中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の旗艦店。8月上旬に店舗を訪れると、スマートフォン売り場に新たな機種がお目見えしていた。

「nova Flip」。ファーウェイが8月9日に中国で発売した折り畳みスマホだ。最大の「売り」は5288元(約10万6000円)からという低価格で、主に若者をターゲットに据える。グリーンやピンクなどの色展開に加えて、専用のバッグを用意する。

ファーウェイは2024年3月、6.94型の有機ELディスプレーや4個のカメラを搭載した折り畳みスマホの高級モデル「Pocket 2」を発売済みだ。価格は7499元からと高額ながら、性能の高さを武器に中国でヒットにつなげた。米調査会社のIDCによると、24年4〜6月期の中国での折り畳みスマホ市場では41.7%のトップシェアを獲得したという。

今回の安価な折り畳みスマホの投入により、中国市場でさらなるシェア拡大を狙う考えだ。販売店を訪れていた30代の男性は「ファーウェイの折り畳みスマホは高額だったが、これなら手を出せそう」と話しており、評判は上々のようだ。

アップルをトップ5から陥落させる

折り畳みスマホだけではない。ファーウェイが中国のスマホ市場で存在感を高めている。IDCの調査では24年4〜6月期の中国スマホ市場でのシェアは18.1%と、前年同期と比べて5ポイント拡大。ランキングは中国vivo(ビボ)に次ぐ、2位に躍り出た。ファーウェイ躍進のあおりを受けた米アップルが、中国スマホ市場のトップ5から陥落する事態に陥ったほどだ。

中国スマホ市場で復権を果たした要因の1つが、高速通信規格「5G」への対応だろう。19年からの米政府による輸出規制の影響で、ファーウェイは先端半導体を調達できなくなった。その結果、5G対応スマホを取り扱えなくなり、主力のスマホ事業の縮小を余儀なくされた。

米国が規制の手を緩めない中、ファーウェイは中国半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)とともに回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体製造技術を確立したもよう。23年8月末に発売したスマホ「Mate60Pro」以降、スペックは非公表ながら5G相当の通信性能を備えるスマホを手掛けられるようになった。

24年4月には、最上位機種で格納式のズームレンズを搭載した「Pura70」シリーズを発売。前述の折り畳みスマホを含め、5G相当の通信機能を備えた多彩なラインアップを用意することで中国の消費者の心をつかんでいる。

24年4月に発売した「Pura70」の最上位機種には格納式のズームレンズを搭載

中国では復権したファーウェイだが、今後の焦点は海外のスマホ市場でかつての存在感を取り戻せるかどうかだ。

かつてのファーウェイの海外スマホ事業では、米グーグルの基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を活用してきた。米国の規制で、アンドロイドのアップデートなどがサポートされなくなり、日本や欧州など世界市場での事業停止を余儀なくされていた。

独自OSで脱アンドロイド

ただ足元では半導体だけでなくOSに対する不安も解消されつつある。ファーウェイは24年内にスマホなど向けの新しいOS「ハーモニーOS NEXT(鴻蒙・星河版)」を投入する計画だ。これまでのハーモニーは独自開発ながらアンドロイドをベースにしていたが、新OSでは一から独自につくり上げた。年内には対応アプリの数も5000に達する見込みだという。米国規制への懸念を完全に排除し、海外再進出を本格化すると見る関係者は多い。

すでに一部の国では、ファーウェイ製の最新スマホを購入できるようだ。ドイツ、フランス、スペイン、マレーシアなどのファーウェイのサイトにはPura70の最上位機種が掲載されている。ファーウェイは詳細を明かさないが、試験的に販売し海外の消費者の反応を調査していると見られる。

ドイツなどの公式サイトにはPura70の最上位機種が掲載(写真=公式サイトのスクリーンショット)

ファーウェイの23年12月期の業績は、売上高が前の期比10%増の7041億元、純利益が2.4倍の869億元だった。スマホや基地局など5G関連が好調に推移し、2期ぶりの増益に転じるなど業績面では復活を果たしている。勢いに乗る中、かつての主力事業である海外スマホ事業も反転攻勢となるのか。アップルを筆頭にライバルたちの脅威になるのは間違いない。

(日経BP上海支局 佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2024年8月9日の記事を再構成]

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