理化学研究所の古沢明チームリーダーらは8日、NTTなどと共同で光通信の技術を活用できる独自方式の量子コンピューターを開発したと発表した。足し算やかけ算などができる基本的な性能を確認した。早ければ年内にもクラウドを通じて共同研究契約を結んだ研究者向けに公開する。
量子コンピューターは量子力学という物理学の理論を応用した計算機だ。通常のコンピューターでは時間のかかる複雑で大規模な計算を短時間で実行できるとされ、実用化に向けた研究が盛んになっている。
実機の開発では米IBMなどが「超電導方式」の量子コンピューターを作り、研究機関に提供しているが、将来の普及をみすえると大規模化などに課題がある。量子状態を作り出そうと様々な方式が提案されているものの本命となる方式は固まっていない。
古沢氏らが開発したのは「光方式」の独自技術で、冷却装置がいらず室温で動作し、大規模にしやすいという特徴がある。光を使うので計算速度も速いという。今回の試作機ではNTTが主要な装置を開発しているように、既存の光通信の技術を応用できるため改良が進みやすい可能性がある。
試作した量子コンピューターは縦1.5メートル、横4.2メートルほどで、信号を101個入力して計算する。他の量子コンピューターと違う方式のため単純に比較はできないが古沢氏は「1000量子ビット相当の計算能力がある」という。
他の量子コンピューターが「0」「1」信号のデジタル方式であるのに対し、試作機は連続する信号を処理できるアナログ方式で計算する。画像解析などに使う人工知能(AI)に適した仕組みだという。「現在莫大な電力を必要とするAIを効率的に動かすことができる」(古沢氏)
理研では超電導方式の量子コンピューターを開発し、23年からクラウド上で公開している。今回の光量子コンピューターについても早ければ年内にもクラウド上で利用できるようにする。
当面はAIの基盤技術である「ニューラルネットワーク」の仕組みを解明する基礎研究などに利用するという。計算途中で発生するエラーを訂正する仕組みなどの開発を進めて、創薬や金融など幅広い分野への応用も目指す。
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