苫小牧での脱炭素化の事業について説明する北海道電力の斎藤晋社長=札幌市の北電本店で2024年4月26日午後3時2分、片野裕之撮影

 北海道苫小牧市が次世代型クリーンエネルギーの拠点として注目されている。海上、航空の輸送の便がよく、事業に必要となる広大な土地を確保しやすい。積雪が少なく、太陽光発電にうってつけということもあり、エネルギー関連企業の事業計画発表が相次ぐ。市は民間と足並みをそろえるように、脱炭素化の取り組みに力を入れている。【片野裕之】

 北海道電力などが中心となって苫小牧港周辺で検討を進めているのが「グリーン水素」とアンモニアの供給網構築計画だ。苫小牧は港があり、北海道の空の玄関口・新千歳空港から近い。生産や貯蔵の拠点として整備し、燃料として用いる発電所や工場などに送る。

 水素は発電時に二酸化炭素(CO2)が生じないクリーンエネルギーの先駆け的存在だが、生産時の排出がネックだった。風力や太陽光などの再生可能エネルギーで水を電気分解して生産するグリーン水素は、この課題をクリアした。次世代のクリーンエネルギーとして需要の拡大が見込まれている。

 グリーン水素のプラントは大分県九重町などにある。北電は出光興産、エネオスと共に、年間約1万トン以上を生産できる国内最大級のプラントと水素貯蔵施設を苫小牧西部に建設する予定だ。出光興産は、市内の北海道製油所などで排出するCO2と水素を合成し、液体燃料の生産も目指す。

 2022年度から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業を活用して、苫小牧西港周辺の水素の需要を調査したところ、工場や発電の燃料として年間約7万トンの利用が見込めることが明らかになった。道内外の大規模発電所や工場にもパイプライン、海上輸送などで供給する。

 水素の利用を後押しするのがアンモニアだ。水素と窒素の化合物で、水素への変換が可能。地球上で最も軽い気体で可燃性の水素に比べて貯蔵や長距離輸送に適している。さらに、アンモニアは燃焼時にCO2が発生しないため、火力発電のボイラーで混焼するといった用途も期待できる。

 北電と北海道三井化学、IHIなど6社は4月25日、海外で製造したアンモニアの買い入れ、貯蔵、供給の拠点を苫小牧に造る検討を始めたと発表した。30年度までに苫小牧港から北日本各地に運ぶ体制づくりを目指す。

 北電の斎藤晋社長は26日の記者会見で「苫小牧地域を脱炭素の拠点にしたい。日本の脱炭素化に資するエネルギーインフラの構築を実現する」と意気込んだ。

苫小牧埠頭の倉庫屋根に設置されたペロブスカイト太陽電池=北海道苫小牧市で4月(日揮提供)

 一方、アンモニアの供給網構築にも携わっている苫小牧埠頭(ふとう)は4月から、日揮、エネコートテクノロジーズとともに「ペロブスカイト太陽電池」の実用化に向けた実験を本格的に始めた。

 ペロブスカイト太陽電池は、日本で開発された最先端の太陽電池。特殊な結晶構造をとり、従来のシリコン型と比べて10分の1程度の重さで、安価に製造できるという利点がある。曲げて凸凹のある場所に設置できるのも特長。室内や曇り空などの弱い光でも発電が可能だ。製品化は26~27年ごろの見通し。

 エネルギー関連企業などと連動し、苫小牧市も市内の脱酸素化を打ち出す。一部エリアで電気由来のCO2排出を30年度に実質ゼロにすることを目指し、事業所などに太陽光パネルを設置して、余剰電力を市街地で使う計画を進めている。

 市は今年4月にゼロカーボン推進室を新設。担当者は「地球温暖化防止は世界の流れ。地元企業の取り組みは全国的な脱炭素化に寄与できるはずだ。民間の事業で活用できるものは、市の取り組みにも生かしたい」と話した。

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