AIは超パーソナライズ化されたコンテンツと新たな検索エンジンにより、小売業者が手掛ける広告網「リテールメディアネットワーク(RMN)」の拡大を支えている。
世界のRMNの市場規模は1400億ドルに上る。各社はさらなる成長に向け、AIに注目している。
小売り、広告代理店、デジタルメディア企業の経営幹部の間ではRMNとAIについての議論が活発化している。
消費財メーカーやブランドはRMNを活用することで、小売業者が保有する「ファーストパーティー・データ」を使って、その小売りのサイトやアプリなどのデジタル資産で的を絞った広告キャンペーンを展開できる。
広告ネットワークを開設する企業が増えるなか、米ビザや米小売り最大手ウォルマートなど様々な企業が既にAIツールを導入し、広告費の最適化、コンテンツの生成、デジタル体験のパーソナライズ化を進めている。
生成AIの活用は広告主や小売業者など業界関係者に2つの大きな商機をもたらしている。
1.生成AIと顧客データを駆使し、顧客に刺さるコンテンツを作成:小売業者やメーカー、広告プラットフォームはAIを活用した分析やパーソナライズ化に対応できるよう、提携や新しい技術の開発によりデータインフラを整備しておかなくてはならない。
2.AI検索への広告出稿により、RMNの到達範囲はさらに拡大:米パープレキシティ(Perpelxity)などのAI検索エンジンは、消費者に広告をピンポイントで届ける新たなフロンティアになる。このため、広告主や小売業者はただちにAI検索エンジンの利用を試すべきだ。AI検索への参入が遅れれば、他社との競争に出遅れる恐れがある。
小売業者と広告代理店、生成AIと顧客データを駆使して顧客に刺さるコンテンツを生成
急増するRMN
2023年の自社サイトでの広告収入が500億ドル近くに達した米アマゾン・ドット・コムに追随し、米ベスト・バイや米1ドルショップ大手ダラー・ゼネラルなど様々な小売業者がこの5年、独自のRMNを開設してきた。
今や米旅行予約サイトのエクスペディアや米料理宅配のドアダッシュ、米決済大手ペイパル、米銀チェースなどさらに多くの消費者向け企業が、顧客データを自社の広告ネットワークで活用しようとしている。
だが、米メタや米グーグルなどデジタル広告の巨人に加え、こうした広告ネットワークが急増したことで、メーカーやブランドのデジタル広告費の配分は薄く広くなっている。
大手企業、AIでパーソナライズ化と分析を深化
もっとも、AIを活用したピンポイントなメッセージにより、メーカーやブランドはRMNの広告の効果を高められる。例えば、生成AIはユーザーの好みにぴったり合ったコンテンツを生成し、機械学習ツールはそのコンテンツを最適なタイミングで配信できる。
世界的な広告代理店の仏ピュブリシス・グループは24年7〜9月期の決算説明会で、AIの活用により小売りの購買データという宝の山をより強力に分析し、パーソナライズ化できるようになると強調した。
大手企業は既に提携を通じてAI分析を強化している。例えば、ビザは独自のメディアネットワークを持っていないが、提携する米アナリティック・パートナーズによるAI分析を加盟店に提供し、加盟店の膨大な顧客データの処理と広告宣伝費の最適化を支援する構えだ。
AIの活用によるプライバシーの懸念と新たなプラットフォームが広告費に及ぼす影響、引き続き課題に
ウォルマートやビザなどの大手企業はまだ初期段階とはいえ、さらに高度なデータ分析とパーソナライズ化というRMNの次の進化に向けて布石を打っている。
もっとも、プライバシーと広告費の問題がRMNでのAI活用のペースと成否を左右するだろう。
・AI検索エンジンの広告参入により、データのプライバシーと使用許可への懸念が引き続き課題になる。パープレキシティなどAI検索サービス企業は既に、ニュースメディアなどコンテンツ提供企業から盗作による提訴や非難を受けている。プライバシー擁護派は個人情報がAIモデルに使われるようになれば、IDの盗用や不正使用が起きかねないと危惧している。
・広告主は従来のチャネル、RMN、新たなAIプラットフォームへの広告費の配分についてさらに難しい判断を迫られる。RMNは既に200以上に達している上に、銀行など非小売企業もプラットフォームを開設している。メーカーや小売業者、広告代理店は新たな商機を逃さないよう、AI検索エンジンをただちに試し、学んでおくべきだ。
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