政府の有識者会議がサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」を可能にする法整備に向けた最終提言を公表した。
サイバー攻撃の脅威は年々高まっており、攻撃の予兆を事前に察知し、被害拡大を抑える仕組みが不可欠だ。通信の秘密やプライバシーに配慮しつつ、実効性の高い防御体制を整える必要がある。
当初はウェブの閲覧妨害から始まったサイバー攻撃だが、今ではシステムからの情報窃取や身代金の要求、重要インフラの機能停止を狙った攻撃にまで高度化した。
攻撃される対象も広範で、最近ではKADOKAWAのサービスが止まり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では内部情報の流出が明るみに出た。
加えてロシアのウクライナ侵略が示したように、現代の戦争は物理的な攻撃とサイバー攻撃が連動する。東アジア情勢が緊迫する中で、国の安全を守るために政府が体制強化を急ぐのは理解できる。
「能動的防御」のカギは、政府が外国からの通信を監視するなどして平時から危険の兆候を探り、必要と判断すれば相手の攻撃を無力化する措置を取ることだ。
サイバー攻撃は瞬時にエスカレートして被害が広がることもあり、先手を打つことが重要だ。攻撃の予兆をつかむ手立てとして米国、英国、ドイツなどの主要国は通信情報の活用を法律で規定しており、日本は立ち遅れていた。
留意すべきは政府による通信の監視と、憲法で保障された「通信の秘密」やプライバシー保護との両立だ。この点について最終提言はメールの中身を逐一見るようなことはサイバー攻撃対策としても、プライバシー保護の観点からも適切ではないと明記し、主な監視対象は通信の宛先などの付属情報になるという考えを示した。
こうした点を法律で担保し、「政府や通信会社に私信の中身をのぞき見される」といった国民の不安の解消に努めるべきだ。
同時に政府は攻撃の予兆をつかむノウハウや相手を封じ込める技術力に磨きをかける必要がある。制度だけできても、運用能力が伴わなければ意味がない。
関連法案を政府は2025年の通常国会にも提出する。日本維新の会や国民民主党など導入に前向きな野党の協力も仰ぎ、早期の成立をめざしたい。「少数与党」が野党との合意点を探り、政策を前に進めるモデルにもなり得る。
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