移住し繁殖農家として但馬牛を育てる村田瑞樹さん。目が特にかわいいという=兵庫県新温泉町で2024年11月11日、北村隆夫撮影
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 神戸ビーフや特産松阪牛などの高級ブランド牛肉のルーツ、肥育や繁殖をする前の子牛(素牛(もとうし))は但馬(たじま)牛(うし)である。昨年、兵庫県香美町・新温泉町からなる「兵庫美方(みかた)地域」で続く但馬牛を育む仕組みが世界農業遺産に認定された。畜産分野では国内初。

 全国に先駆け、明治期から牛の戸籍にあたる「牛籍簿」を作り、他県の牛とは交配しない純血の血統を管理し、改良し続けてきた。おいしさの秘訣(ひけつ)は、世界でもここにしかない遺伝資源が保たれていること。全国の黒毛和牛の母牛の99・9%が1939年、この地域で生まれた種雄牛「田尻号」の子孫とされる。

 山深い地形と豪雪の風土のなか、かつて農家は狭い農耕地を牛を使って耕してきた。生産された子牛は稲作と冬場の出稼ぎとともに収入源となり、暮らしを支えた。新温泉町の尾崎喜代美さん(89)の家には、一つ屋根の下で人と牛が暮らす「まや」が今も残る。この地域で唯一だという。3代にわたり牛を育てている尾崎さんは「牛は家の宝物。福の神だ」と話す。但馬牛は家族の一員として愛情を込めて育てられてきた。米作りでできた稲わらやあぜの草は飼料となり、但馬牛のふん尿は肥料として田畑に還元される。また、放牧によって草原の環境が維持され、多様な生態系が保たれる。農業と人の暮らしが循環し、牛との共生が実現している。

 飼育から販売までの一貫経営で約1400頭を大規模に飼育する上田畜産(香美町)の上田伸也社長(53)は、美方地域の但馬牛をより一層価値あるものとするために、母系の遺伝的多様性を拡大させ、血統の維持に寄与したいと話す。また、志の高い若手農家には培ってきた技術を惜しみなく教え、次世代への継承にも力を入れている。

 高齢化と後継者不足は課題だが、移住して就農する担い手もいる。新温泉町の村田瑞樹さん(29)は、大阪の農芸高校で出合った牛に魅せられ、県立農業大学校に進学。但馬牛に関わる人たちの誇りと熱意に圧倒された。卒業後、地域おこし協力隊を経て、同町が設けた新規就農者対象の但馬牛研修センター1期生として、繁殖農家の技術を身に付けた。独立6年目の今は、母牛23頭、子牛14頭を所有する。「将来は牛の数を増やして、この地域に根付ける畜産農家になって恩返ししたい」と村田さん。感謝や情熱を胸に但馬牛と向き合う。

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