北海道大学北極域研究センターの安成哲平准教授らの研究グループは、シベリアで大規模な森林火災が発生した場合、大気汚染物質がどのような影響をもたらすかについて、コンピューター上の気候モデルなどを使ってシミュレーション(数値実験)した。
森林火災は、有機炭素や硫酸塩といった微粒子(エアロゾル)の大気汚染物質を発生させ、気候変動のほか人の健康、経済など多岐にわたって影響を引き起こすことが懸念されている。エアロゾルは光を散乱、吸収して地表へ届く太陽光を減少させる効果がある。エアロゾルのうち極めて小さいPM2.5(微小粒子状物質)は人の肺の奥に達し、呼吸器系や循環器系の健康被害をもたらす可能性が指摘されている。
研究グループは、こうした大気汚染物質が2003年にシベリアで起きた大規模な森林火災時の2倍生じたと仮定し、影響を推定。北半球の広い地域で気温を下げる冷却効果があるほか、火災発生源の風下に当たる東アジアの各国に大きな影響をもたらすことが示された。森林火災が少ない場合と比べ、日本では年間約2万3000人の死者数増が推定された。ロシア(火災発生周辺地域)では約1万1000人、中国では約6万7000人、韓国では約4800人の死者数増がそれぞれ起こりうるという。経済的損失も大きく、日本では約838億ドルに上ると見積もられている。
シベリアで大規模森林火災が起きた場合の被害推計
- 日本
- 年間の死者数増:約2万3000人
- 経済的損失額:約838億ドル
- ロシア
- 年間の死者数増:約1万1000人
- 経済的損失額:約153億ドル
- 中国
- 年間の死者数増:約6万7000人
- 経済的損失額:約507億ドル
- 韓国
- 年間の死者数増:約4800人
- 経済的損失額:約155億ドル
※ロシアは火災発生地の周辺地域のみ
出所:北海道大学の安成哲平准教授らの研究グループ
今回の影響評価は、森林火災に関して地球規模での対策が必要であることを示した形だが、安成准教授は推定した数値について、「いろいろな仮定を置いており、モデルの誤差もありうる。あくまで相対的な違いを議論するものであり、目安と考えてほしい」と話している。
論文は、米国地球物理学連合の科学誌「アースズ・フューチャー」に掲載された。
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