ニジマスを代理の親魚として誕生したサケ(マスノスケ)=東京海洋大学の吉崎悟朗教授提供

東京海洋大学の吉崎悟朗教授らの研究チームはサケの卵や精子をニジマスにつくらせる技術を開発した。サケは生涯に一度しか卵や精子をつくれないが、ニジマスを代理の親魚として使えば何度もつくれる。サケの養殖や品種改良を効率化できる。

サケの仲間であるマスノスケ(別名キングサーモン)は成魚になると、海から生まれ育った河川などに戻って産卵をする。性成熟には3〜7年ほどかかる。精子や卵は生涯で一度しかつくれず、産卵を終えると雌雄どちらも死ぬ。

サケ科のニジマスは毎年産卵できる能力を持つ。研究チームは遺伝子を改変できるゲノム編集技術で自らの生殖細胞を作らないニジマスの稚魚を作った。その稚魚にサケから精子や卵のもととなる「生殖幹細胞」を取り出して移植した。

稚魚は雄では1歳、雌では2歳で性成熟し、サケの生殖細胞をつくるようになった。生殖幹細胞は雄に移植すれば精子、雌に移植すれば卵をつくり、受精させると健康なサケが誕生した。

ニジマスはサケの精子や卵を毎年つくり続け、4歳になるまでにつくる生殖細胞の総数は通常のサケに比べ、卵は約5倍の5000個程度、精子では約2倍の1兆個程度に増えていた。移植した生殖幹細胞によってできる精子や卵の量や回数は、代理となる親魚に制御されることが分かった。

サケの養殖では毎年、大量の親魚が必要になる。今回の新技術でニジマスを代理の親魚とすることで手間を減らせ、従来よりも短期間で次世代の個体を得られる利点もある。一般的に魚の品種を開発するためには5世代の交配が必要とされ、15〜20年程度かかるが、新技術を使えば5〜10年程度に短縮できると見込む。

吉崎教授は「希少性の高い高級魚などの品種開発や養殖技術に応用すれば、安定的においしい魚を供給できる手法になり得る」と話す。食用魚だけでなく、絶滅が危惧されている魚類の保護にも応用したい考えだ。成果をまとめた論文は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載された。

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