トマト狩りを楽しむ親子=滋賀県高島市で2024年5月3日、西村剛撮影
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 白で統一されたビニールハウス内に、真っ白な500本以上のパイプが林立する。パイプの穴からはミニトマトの緑の茎が伸び、赤やオレンジ、黄色などの実がたわわに実っている。パイプ内を静かに流れる水の音は小川のせせらぎを思わせる。

 滋賀県高島市の「BIWAKO AQUA PONICS」(ビワコ・アクアポニックス)は、オニテナガエビの養殖とトマトなどの水耕栽培を同時にするアクアポニックス(循環型農業)の施設だ。トマトなど作物を育てるパイプとエビの水槽をつなぎ、水を循環。エビの排せつ物が作物の肥料となり、エビにとって有害なアンモニアなどは作物に吸収される。蒸発した水は地下水で補充し、排水はないという。

 仕掛けたのは大津市内で消防設備の会社を営む本郷顕一さん(49)。新型コロナウイルス禍で「安心・安全」が脅かされる中、設備面での安全だけでなく「食の安全」についても考えさせられ、農業の大切さに気づいたという。

 2020年9月から民間の農業学校に通い始め、授業の一環でアクアポニックスに出合う。土作りが不要で、魚介類がいるため農薬は使えず安全面でも納得のいくもので、これだ、と思った。すぐに家族の賛同と高校時代の同級生らの参加を得た。別の同級生の家族が所有していた耕作放棄地を借りることができ、翌年には実行に移す。

 資材の搬入からパイプの配管までほぼ自分たちだけで作業した。育てる作物や魚介類の選定、施設のレイアウトまで徹底的にこだわりを持つ。

 22年7月にオープン。「映(ば)える」ハウス内でトマトの摘み取りができ、併設のカフェスペースでは取れたてトマトを使ったピザ焼き体験などもできる観光農園として知られるようになった。施設内で取れたトマトとエビを使ったスープは、生産が追いつかず売り切れになることが多いという。

 「まねをするのも、されるのも嫌い」と言いながら、企業や学校などの見学・学習に力を入れる。4月下旬には、毎年のように来ているという京都市の進学校、洛星中学の新入生らが校外学習の一環で訪れた。本郷さんは施設内を案内し、質問に答える。生徒たちはパイプの柱から次々と伸びているトマトや、パイプ内にびっしりと張った根などに興味津々。過去には見学した生徒が家族と再訪したこともあったという。

 生徒たちへの説明を終えた後、本郷さんは言った。「勉強は大切だが、将来自分は何をやりたいかも考えてほしい。ここはぼくがやりたいと思ったことを具現化した場所。いつかここを思い出して、好きなことやってたおっちゃんがいたなあ、と思ってくれたらうれしい」【西村剛】

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