中古車販売サイトなどではよく見かける「修復歴」の文字。事故などでクルマを直した経歴であろうことは想像できるものの、修理の範囲や事故歴との違いなどは案外知らないもの。クルマの購入や手放す際に気になる「修復歴」の意味とは?

文/井澤利昭、写真/写真AC、日本自動車鑑定協会、AdobeStock

■お得なプライスの中古車に見られる“修復歴あり”の文字

できれば一生経験したくないクルマの事故。ダメージを負った箇所やその度合いによっては、たとえ修理ができたとしてもそのクルマは「修復歴あり」となる可能性も。その判断は素人には難しいため、修理も含めプロの手に委ねることになる

 春からの新生活に合わせ、クルマの購入を検討しているという人もいるかもしれない。新しい生活にふさわしい新車が購入できればもちろんそれに越したことはないが、何かと物入りで予算が厳しいなか、強い味方となってくれる存在が中古車だろう。

 数多くの中古車が並ぶ販売サイトは見ているだけでも楽しいが、価格や年式、走行距離などと並んで気になるのが「修復歴」の文字だ。

 似たような条件の同一車種で比較すると、価格がリーズナブルなものが多く、一見するとお買い得にも思える「修復歴あり」の中古車。

 とはいえ、事故や不具合などがあって壊れた部分を修理したことがあるクルマであることは何となく想像がつくだけに、クルマに詳しくない素人にとっては「これってホントに大丈夫なの?」と疑問に思ってしまう。

 そもそも中古車の「修復歴」とは、具体的にはどんな意味があるのだろうか?

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■「修復歴あり」とは安全性に関わる部分に修理・交換の過去があるクルマ

 過去に事故やトラブルによって壊れた箇所を直したことのあるかどうかを示す「修復歴」。中古車の場合は販売店が勝手に決めているわけではなく、きちんとしたルールが存在する。

 これは中立公正な第三者機関として、中古車査定士の技能検定試験や技能向上研修に努めている「一般財団法人 日本自動車査定協会」(JAAI)が定義しているもので、クルマを安全に運行するうえで重要な、骨格(フレーム)などを修復したかどうかが「修復歴」を決める基準となっている。

 具体的には「フレーム」(サイドメンバー)、「クロスメンバー」、「インサイドパネル」、「ピラー」、「ダッシュパネル」、「ルーフパネル」、「フロア」、「トランクフロア」という8箇所がその対象。

 事故などによる破損でこれらの部分を交換したり、修復(修正・補修)したクルマが、中古車市場で「修復歴あり」とされるワケだ。

 一方、こすったボディを塗り直したり、凹んだバンパーを交換したりなど、軽微な修理・修復の場合は「修復歴」とはならず、販売時にそれを知らせる義務はない。

 つまり「修復歴」=「事故歴」というわけではなく、たとえ「修復歴なし」のクルマであっても、事故を起こしたり故障したことがないクルマ、というわけではないということだ。

■クルマに詳しくない素人にはわかりづらい? 「修復歴あり」の見分け方

事故を起こした「修復歴あり」のクルマは、売却時の査定価格がどうしても通常より下がってしまう。だからといって過去に修理したことも黙っているのはNG。プロの査定士にかかれば簡単に見破られてしまう(tatsushi@Adobe Stock)

 有名な中古車販売サイトに掲載されているクルマであれば、「修復歴」のある・なしは、ひと目でわかるようになっている。

 では、街中で見かけた販売店の店頭などに並ぶ中古車などの場合、その「修復歴」はどうやって確認すればよいのだろう。

 まず、素人でもわかりやすいのが、そのクルマが売買されてきた自動車オークションや買い取り業者が発行している査定表だ。査定の基準は業者によってさまざまではあるものの、この総合評価に「R」と記載されているものは「修復歴あり」の車両と思って間違いない。

 また、12カ月点検や24カ月点検などの整備の際に整備工場がその内容を記録する点検記録簿にも、そのクルマを修理した際の記録が残っている可能性がある。

 購入を検討している中古車の「修復歴」があるのかないのかがはっきりしない場合は、その販売店のスタッフに確認し、可能であれば査定表や点検記録簿を見せてくれるようお願いしてみよう。

 明確な答えが返ってこなかったり、査定表を見せることを拒否された場合には、仮にそのクルマに「修復歴」がないとしても、その販売店での購入は控えたほうが無難だ。

 また、実際にクルマを見ることでも、「修復歴」のある・なしはある程度見分けがつくという。

 車内や車体の下側を覗き込み、フレームを修復した跡がないか、塗装が剥がれたり色が一部だけ変わっていないかなど、違和感を感じるようであれば、そのクルマの購入はあきらめたほうがいい。

 とはいえ、ここ最近は修復の技術も進んできているために、素人にはなかなかわかりづらい。

「修復歴」はもちろん、本来は告知する必要のない細かな修理歴まで公開している販売店であれば、ある程度は信用してもいいかもしれない。

■「修復歴あり」のクルマを購入するメリットと注意点

 それでもあえて「修復歴あり」の中古車を購入する最大のメリットはやはり、同じ車種であれば、相場より数万円から数十万円もリーズナブルに購入することができるという点だ。

「修復歴あり」の中古車といっても、その損傷の度合いはまちまち。もしダメージがほとんどない個体を見つけることができれば、かなりの掘り出し物ということになる。

 とはいえ、安全性や耐久性という面から見ると「修復歴あり」のクルマは不安があり、購入後の不調で出費がかさめば、安く買えたメリットも台なしということになってしまう。

 そんなことにならないためにも、購入前にはまず検査表や点検記録簿で修復された箇所やその程度を必ず確認。可能であれば不具合の原因となった事故の詳細なども調べるようにしたい。修理した箇所が見えるのであれば、目視での確認もしっかりとしておこう。

 加えて試乗することも重要で、走行中に異常な振動や異音を感じたり直進性が極端に悪いなど、違和感を感じるようであれば、そのクルマの購入は見送ったほうがいいだろう。

 また、買ってはいけない中古車のひとつとして「修復歴あり」以上に注意したいのが「水没車」(冠水車)だ。

 これは文字どおり、集中豪雨や台風による洪水などで水に浸かってしまったクルマのことで、大きな災害などが起こった後などには、市場に出回ることが多い。

 この「水没車」は「修復歴」にはカウントされないため、悪質な業者がそのことを告知せずに販売するケースもあるという。車内が異常にカビ臭い、車内に水に浸かったような跡やシミがあるといった場合は「水没車」の可能性があるため、絶対に購入しないよう気をつけたい。

■黙っていると罪になる? 「修復歴あり」の愛車を手放す際の注意点

 リーズナブルな価格が魅力の「修復歴あり」の中古車だが、反対に、過去に修復したことのある愛車を手放す場合はどうなるのだろうか?

 少しでも高く売りたいという気持ちから「修復歴」があることを黙っていたほうがいいのでは……? と思ってしまうかもしれないが、プロの査定士にかかれば九分九厘見破られてしまう可能性が高い。

「修復歴」がある場合はやはり、そのことを素直に話したほうが、査定もスムーズに進むはずだ。

 また、「修復歴」があることを意図的に隠していた場合、告知義務違反として「瑕疵(かし)担保責任」を負うことになる可能性が発生することもありうる。「瑕疵担保責任」とは、申告していなかった不具合がクルマに見つかった場合、売主は契約解除や修理・整備代などの損害賠償請求に応じなければならないという法律上のルール。

 要するに過去の「修復歴」を隠していたことが原因で事故などが起これば、その責任は売主が負うことになる、というわけだ。

「修復歴あり」のクルマは事故車として扱われ、どうしても査定額が大きく下がってしまうだけに隠したい気持ちはわかるが、その後のトラブルを避けるためにも、正直に申告しておくのが得策だろう。

 ちなみにボディの傷を塗り直したり、凹んだバンパーを交換したといった軽微な不具合の修理については、きちんと修理がされていれば査定に大きく影響することはないため、こちらも後々のトラブル回避のため申告しておいたほうがベターかもしれない。

 売買どちらの場合も、修復の内容をしっかりと把握し、その後の事故やトラブルに発展しないよう見極めることが必要とされる「修復歴あり」のクルマ。

 いずれの場合も、まずは信頼できるショップを見つけることが重要となってくる。

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