2023年に日本市場での販売を開始した中国の自動車メーカーBYD。元々バッテリーメーカーとしてスタートしたということもあり、その高いバッテリー性能がアピールされている。その話題の中心となっているのが「ブレードバッテリー」だ。他のBEVのバッテリーとどう異なるのか?違いを中心にBYDのブレードバッテリーの特徴を見ていこう。

文:西川 昇吾/写真:AdobeStock・ベストカーWeb編集部

■材料からこだわる! リン酸鉄リチウムイオンバッテリー

バッテリー会社がクルマを作り出すってだけでも凄すぎない…..!?(Roman Milert@AdobeStock)

 まず大きく異なるのがバッテリーの材料だ。これまでBEVで多かったのは三元系リチウムイオンバッテリーと呼ばれるもの。これはニッケル、コバルト、マンガンの3つの元素を使用している。

 対してBYDのブレードバッテリーはリン酸鉄を使用しているリン酸鉄リチウムイオンバッテリーとなっている。

 特徴として三元系リチウムイオンバッテリーの方が、エネルギー密度が高く低温時に性能が低下する傾向が低い。

 そのためBEVではコチラの方がバッテリー容量を増やすことが可能で、航続距離を長く確保できるため好まれていた。

 もちろんデメリットもある。それは希少金属のコバルトを使用するため、コストが高くなってしまうことだ。

 リン酸鉄リチウムイオンバッテリーは、エネルギー密度は低く、低温時に性能が低下する傾向あるが、希少金属のコバルトを使用しないため、コスト的に安く済むとこれまで言われてきた。

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リン酸鉄リチウムイオンバッテリー、これだけは譲れない

他社の差別化を決定付ける、究極の一手

 しかし、BYDは長年リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの研究開発を行い、エネルギー密度や航続距離の問題を克服しようとしてきた。

 それはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの方が安全性に優れているという理由が大きい。その理由はバッテリーの結晶構造が強固で熱安定性が高いからだ。

 つまり、BEVで問題視されているバッテリーの熱暴走や発火が起こりにくい。

 BYDが安全性をアピールしている実験として、バッテリーに直接釘を刺す「釘刺し実験」だ。

 この試験では三元系リチウムイオンバッテリーは発火や爆発をしたが、BYDのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーであるブレードバッテリーでの熱暴走は起こらなかった。

 もちろん、安全に絶対というものはないが、このような背景からBYDはブレードバッテリーの安全性が高いとしているのだ。

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モジュールレス化! バッテリーセルを効率的に敷き詰める

効率よく、クルマだけに限らず日常でも意識していきたい(Shutter2U@AdobeStock)

 また、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの課題点であったエネルギー密度や航続距離といった面はどうしたのだろうか?

 実はこの対策に「ブレードバッテリー」と呼ばれる最大の理由がある。バッテリーの構造をシンプルにすることで、効率的にバッテリーセルを搭載することを可能とした。

 リン酸鉄リチウムイオンバッテリーセルを刀(ブレード)のように薄く長い形状にし、効率的に敷き詰めたのだ。このためブレードバッテリーと呼ばれる。

 効率的なバッテリーの配置によって、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーそのものはエネルギー密度が低いが、三元系リチウムイオンバッテリー並みの大容量を得ることができたのだ。

 これが可能となったのは三元系リチウムイオンバッテリーでは、セルをまとめた「バッテリーモジュール」そしてそれを1台のクルマに搭載される形にまでまとめた「バッテリーパック」という3つの構成でバッテリーは出来上がっていた。

 簡単に言えば安全性を高めるために複数の容器でバッテリーセルを包んでいたのだ。

 しかし、ブレードバッテリーは安全性の高いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーだからこそ、モジュールなしでバッテリーパックを構成することを可能にした。だから効率的にバッテリーセルを敷き詰めることを実現したのだ。

 BEVの世界はまだまだ進化の過渡期だ。何が正解か分からない。ただ、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーであるBYDのブレードバッテリーは他にない高性能な新たな戦略と言える。

 高い安全性に、コバルトを使用しないからこそ可能な安価なコスト、そして研究開発で克服したエネルギー密度問題。このブレードバッテリーが武器と評価されるかも注目だ。

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