2004年12月、日産本社が100%出資で設立したモータースポーツ専門の子会社、ニスモがとんでもないコンプリートカーを登場させた。限定20台、1774万5000円で販売したニスモR34GT-R Z-tuneである。その心臓部には500ps以上/55kgm以上というRB26DETT改Z2、2771㏄エンジンが搭載され、ニスモ自らが「世界最強のロードゴーイングカー」と謳うほどの自信作。どんなモンスターだったのか、ベストカー2005年2月26日号に掲載された記事を見ていこう。

※本企画はベストカー2005年2月26日号の記事(執筆はベストカー編集部)から抜粋したものです

文:ベストカー編集部/写真:茂呂幸正

■開発の経緯は?

2005年2月26日号に掲載されたニスモR34GT-R Z-tune

 絶版から数えて2年半を経た2004年末、NISMOが全力をかけてチューニングをしたのがこのZ-tuneだ。ここではまずこのZ-tune誕生の経緯から辿っていきたい。

 まず基本コンセプトが決定したのは2000年まで遡る。NISMO社内において「最強のロードゴーイングカーを作りたい」という機運が、誰が言い始めたというわけでもなく盛り上がっていったという。

 最初にそれが結実するのが毎年12月に開催される「ニスモフェスティバル」であった。当時は同イベント中に各ショップなどが腕を競う「「チューナーズバトル」が富士スピードウェイで開催されており、これに参加すべくGT選手権のGT500クラスと同じ、2.8L、600psに仕上げて参戦、見事優勝を果たす。

当時1774万5000円という価格は高すぎて誰も手が出なかった。この3年後にR35GT-Rが登場する

 「市販も考えています」と衝撃の発表があったのはレース直後で、翌年から市販を前提としたロードゴーイングモデルの開発がスタート。

 本革張りの内装やエアコン、触媒などを装着してテストが繰り返され、エンジンもレース専用の「Z1」から現在の「Z2」に進化。ここで馬力はより実用性を考えた仕様として500ps(以上)となる。2003年にはニュルブルクリンク24時間レースに出場するなどして実績を重ねてきた。

ボディサイズは全長4600×全幅1810×全高1330mm。張り出したフェンダーにより全幅が標準より15mm拡大

 開発者によれば、やはり一番の注目はボディとエンジン。ベースとなるR34GT-Rは走行距離3万㎞以下、それもハードな諸条件をクリアした躯体のみで製作され、そこから一度分解。スポット増しなどのボディ補強を行なったあと、専用色であるダイヤモンドシルバーメタリックに塗り直される。

結晶塗装で黒光りするRB26DETT改Z2」には20基すべてにシリアルナンバーが刻印され、将来にわたってデータを管理

 エンジンに関しても徹底的なチューニングが施されている。具体的にはGT選手権で使用されるものと同じエンジンブロック、クランクシャフト、コンロッドを使用し、専用鍛造ビストンを採用。

 ニュル24時間レースでも実績のあるIHI製ターボチャージャーに換装され、吸排気系も専用パーツを使用。これらすべてがNISMOの熟練メカニックによる一台一台のハンドメイドとなる。月産2台程度を予定しており、すでに3名が成約。納車は早くとも春過ぎだという。

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■完璧なサービスと驚愕のお値段

「スポット部からのボディ劣化を防ぐため」にとシール部分に隠されたスポット増し

 Z-TUNEはメンテナンスにも完璧なフォロー態勢が敷かれる。納車はR34スカイラインGT-Rの開発主査である渡邉衝三氏や開発を担当したテストドライバー立ち合いのもと、品川区大森のNISMO本社で実施。年に1回、専属メカによるメカニカルチェックとオイル交換が無料で受けられる。

 また1774万5000円という衝撃的な価格についてだが、「あまりにも専用パーツが多すぎて個別な内訳は出せません」とのこと。

 「パーツごとの開発費やテスト代、組み付け工賃をそれぞれ算出し、純粋に足していくと2000万円以上です。ウチが赤字なのは間違いありません」とはNISOMO開発者談。エンジンだけでも1000万円と超えるとのこと。

■ニスモR34GT-R Z-tuneの走りは?

インパネ回りはR34GT-R標準車の雰囲気を残しつつ、より上品に、かつスポーティな仕上がりだった

 発表に先駆けてNISMOはこのZ-tuneを鈴鹿サーキットに持ち込んで走行テストを実施している。周回ラップタイムは2分20秒を記録。0~400mは10秒6、0~1000mは23秒フラット。参考データとして同条件で計測されたポルシェ911GT3が0~400mが12秒8、BMW M3CSLが13秒3、フェラーリF40が11秒9という数値だったとのこと。世界のトップたちと比べても抜きんでた性能を示している。

 では実際に乗ってみるとどうか。今回わずかな距離だがステアリングを握ったが、従来の500psクラスのチューニングマシンと比べると、乗りやすさに驚く。

 ツインプレートクラッチが採用されているため、ノーマルと比べれば当然踏力は必要だが、それも慣れれば問題なし。パワステ&エアコン&専用シートで街乗りでも充分使えるレベルだ。

 もちろん、高速道路での長距離ドライブもこなせそうだ。足回りも固いというよりしなやか。路面のギャップは敏感に拾うものの、けっして不快なレベルではなかった。さすがお金かかってます!

■ほぼ中古車市場に出回っていない

NISMOチューニングの頂点、究極を表わす「Z」を使用

 最近R33 NISMO400Rが国内のオークションで1億円超で落札されたことはあるが、このNISMO R34GT-R Z-tuneはほぼオークションや中古車市場では見かけない。2020年に香港で6800万円で販売されたことが話題となったことはあったが……。

 生産台数は当初限定20台だったが、最終的にはプロトと保存車の2台を含め19台が生産された。内訳は国内では13台、そのほかの4台がオーストラリアやタイ、マレーシアなど海外に販売された。

 いまやR34GT-R VスペックIIニュルやMスペックIIニュルが3000万円以上とも、5000万円以上ともされる取り引き価格を考えると、今NISMO R34GT-R Z-tuneが中古車市場に出るとなると8000万円以上、いや1億円は下らない……かもしれない。

 買っておけばよかったという意見はあるが、2004年当時はR34GT-Rの中古車は500万円以下で充分手に入った状況だったので、1774万5000円という価格を聞いた時は、高すぎる、誰が買うんだ? というほど驚いたのだが、今振り返ってチューニング内容を見ていくと安く感じるのは気のせいか(とはいっても庶民には高嶺の花ですけど……)。

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