ヤマハの新オートマ機構Y-AMTを搭載した「MT-09 Y-AMT」が国内で発表。開発者の会見でメカニズムなどの詳細が明らかになった。ボタン変速によってライディングに集中でき、変速時間はクイックシフターと同等。プロ並みの加速ができるほか、Uターンも簡単にできるという。

  文/沼尾宏明 Webikeプラス  

クラッチレバーなし、AT限定免許で運転できるMT-09がスタンバイ

 欧州仕様のMT-09 Y-AMTが発表された翌日の2024年7月26日、ヤマハが日本のメディアに向けてオンライン会見を行い、MT-09 Y-AMTの詳細が明らかになった。

 おさらいしておくと、Y-AMTはクラッチレバーとシフトペダルを備えず、手元のボタンで任意に変速可能。自動変速の完全オートマモードにも切り替えられる。システムがシンプルなため、既存マニュアルミッションのエンジンに搭載が可能だ。

 その第一弾がMT-09 Y-AMT。6速マニュアルのMT-09をベースに、Y-AMTを搭載した。クラッチレバーがないため、AT限定の大型二輪免許でMT-09に乗れることになるのだ。

 会見では、年内に日本でMT-09 Y-AMTを発売予定とアナウンス。今後はMT-07の700cc並列2気筒と、MT-09と同系の890cc3気筒を積んだモデルに順次Y-AMTを搭載していくと語られた。

 

 

 

 

 

 

     

原点は「人機官能」、スポーツの楽しさを強調する

 会見によると、このシステムはヤマハの開発思想である「人機官能」が原点。ボタン操作の変速によって人機一体感が向上し、官能エリアが拡大するという。

 ヤマハは2006年に世界初のモーターサイクル用自動マニュアル機構「YCC-S」をFJR1300ASに搭載。以降、進化を重ね、2017年からは4輪バギーにも採用するなど研究を続けてきた。その成果が今回のY-AMTに結実している。

 開発の狙いは「Fun」「Confidence」(信頼)「Comfort」(快適)。あくまでボタン変速によるMTモードがメインで、スポーツライディングの楽しさを強調。ライダーが思い描くラインを走り抜け、ライディングに没入できることを狙った。

 FJR1300ASのYCC-Sに比べると、スポーツ性の進化に加え、当時は非装備だったオートマ機能によるイージーさがメリットだ。

 

 

【システム解説①】高度な制御と新開発シフトロッドで素早くギヤチェンジ

 ベース車のMT変速機構に、シフト操作を行うシフトアクチェーター(電動モーター)、クラッチ操作を行うクラッチアクチュエーターなどを搭載したのがシステムの基本構成だ。ユニット重量は約2.8kgと軽量かつスリムコンパクトな設計。ベース車のスタイルやハンドリングへの影響を最小限に抑えられる。

 

 

 

 

 

 

 ギヤチェンジの際は、ECU(エンジン制御コンピュータ)とMCU(アクチュエーター制御コンピュータ)が通信で連携。エンジンの点火/噴射、電子制御スロットルなどを自動でコントロールし、最適なシフト操作とクラッチ操作を行う。また、クラッチシフトアクチュエーターの制御によって全域で変速ショックを抑えられる。

 さらにスプリング内蔵のシフトロッドを新開発。ギヤが抜ける前から動作を開始し、スプリングで畜力(プリロード)してから、エンジントルクを抜いてギヤを素早く変更する。

 

 

 

 

【システム解説②】変速時間はシフターと同じ0.1秒、挙動や極低速時の安定感も優秀

 これらのシステムによって、マニュアル車と同等の発進加速を実現。シフトアップ時の変速時間はクイックシフターの0.1秒と同じ。その上、シフターより低回転時のショックが少なく、常時変速できるのもメリットだ。

 参考までにゼロヨンタイムは10.9秒。クイックシフターを使ったプロライダー相当の発進加速が可能というから凄い。

 

 

 ATモードには2種類あり、 穏やかなDモード、レスポンスがよく加減速を楽しめるD+モードから選択可能。ATモード中でもライダーがシフトレバーを操作して介入できる仕組みだ。

 また過去のYCC-Sに比べ、極低速時の挙動が非常にスムーズ。自動で半クラッチ状態に制御してくれるため、Uターンもやりやすという。さらにMT-09はホイールベースが短いため、小回りできるとのことだからビギナーにも朗報だ。

 燃費に関してはSTDのマニュアル仕様と同等。技術的には燃費向上を狙える可能性あるが、あくまでスポーツライディングが目的としている。

ホンダE-クラッチはやはり意識、余裕のある走りがY-AMTの強み

 まず気になる価格に関しては「まだリリースされていないので、本日はお答えできません」としながら、「そこまで大幅な価格の上昇はない」とのこと。

 Y-AMT車の第一弾にMT-09を選んだ理由は、Y-AMTの楽しさや価値を広めるフラッグシップとして相応しいと判断したため。

 Y-AMTは高いレベルのスポーツライディングをより多くのライダーに提供することが目的。快適性に重きが置かれるトレーサー9GTのようなツアラーではなく、俊敏性が高いMT-09に先駆けて搭載することで、ヤマハが持つハンドリングなどスポーツの世界を堪能してもらうことを狙った。

 2024年6月から販売されたホンダ「E-クラッチ」との比較も気になる点。ヤマハとしてもやはり「意識している」と話す。

 「ただ、大きな違いがあるかなと思っています」という。ホンダのE-クラッチは、クラッチ操作を自動化しつつ、クラッチレバーを装備。ノークラッチでも、クラッチレバーでも変速できるが、いずれにせよ足元のペダルでシフトチェンジする必要がある。

 一方のY-AMTは「クラッチを自動化するだけではなく、シフトも自動化してオートマを実現しています。快適に走行したり、心に余裕を持って景色を楽しみながら走るという点は、ホンダのEクラッチで実現しにくい。そこがアドバンテージと考えております」と語る。値段に関しても「E-クラッチと競争力のある価格にしたい」と話す。

 

 

電スロ非搭載車にも採用は可能だが?

 またE-クラッチのみならず、BMWも自動変速モデルを投入。KTMも発売予定だ。こうしたトレンドに関しては「Y-AMTは電制御シフトの進化の一つして過去から計画されており、他社を見て始めたわけではありません。ただホンダのDCT販売比率や市場調査から自動変速を求めるマインドは先進国で強くなってきている」としている。

 他モデルへの展開は上記のとおりだが、「電子スロットルを持たない機種にも技術的に導入は可能」とのこと。ただし電スロの方が変速中にエンジン回転を素早く変えられるため、電スロと組み合わせた方がよりよい商品ができるという。

 ――価格を含めた詳細は続報を待ちたい。スポーツライディングがより楽しくなるという乗り味も楽しみだ。

 

 

MT-09 Y-AMT[2024 欧州仕様]主要諸元

※【 】内はMT-09欧州仕様
・全長×全幅×全高:2090×820×1145mm
・ホイールベース:1430mm
・シート高:825mm
・車重:196【193】kg
・エンジン:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ 890cc
・最高出力:119PS/10000rpm
・最大トルク:9.5kg-m/7000rpm
・燃料タンク容量:14L
・変速機:6速Y-AMT【6速マニュアル】
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17

 

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