スーパーカーを超える存在として君臨するハイパーカーが世界のクルマ好きセレブに支持され始めた2000年代、新進気鋭の小規模自動車メーカーが世に送り出したのが「APOLLO」。まさに宇宙から襲来した戦艦のような超希少車をプリウス武井が夜の環状線で爆走インプレッション!!

※本稿は2024年7月のものです
文:プリウス武井/写真:小林邦寿
撮影協力:WING AUTO
初出:『ベストカー』2024年8月10日号

■プリ武が夜の環状線でハイパーカーを駆る

今回プリウス武井がドライブするのは伝説のハイパーカー、グンペルト アポロ

 ミレニアムに沸いた2000年代。その頃から、量産車を製造するメーカーとは一線を画し、豪華さと速さだけを追求するハイパーカーメーカーが続々と誕生してきた。その一角がグンペルトだ。

 アウディレース部門の責任者だったローラント・グンペルトが2004年1月に設立。この小さな自動車メーカーが注目されたのは、2009年8月13日、ニュル北コースにおいて今回紹介する「アポロ」が当時の市販車最速を叩き出した時。

 レコードタイムは7分11秒57。2003年に発表されたポルシェのフラッグシップ「カレラGT」が樹立した最速タイムを大幅に更新。フェラーリやマセラティのハイスペック・スペチアーレモデルでも負かすことはできなかったポルシェを超えた。

 しかし、アポロがついてないのは、最速記録を叩き出した1週間後に英国の小規模自動車メーカー「ラディカル」が製造した「SR8LM」が6分台を出し、記録を大きく更新されてしまったこと。

 ラディカルは市販車というよりFIA世界耐久レースを見据え製造された生粋のレーシングカーなので、まったくの不運といっていい。

 グンペルトの悪夢は続く。技術者と経営者の才能は相反するのは歴史が物語っているが、2012年8月、夢半ば資金難で経営破綻。だが、神はいた。ローラントの夢を具現化し誕生したグンペルトの意志は消滅することなく「アポロ・アウトモビリ」として復活している。

 今では超レアとなったアポロS(スポーツ)をいつものホームコースの首都高速から、名古屋の中心部を走る都心環状線に遠征しインプレッションした。1周5キロほどの距離だが、ニュル北コースで最速を樹立したマシンのポテンシャルを試すには申し分ない。

 イイ女を見た時のように思わず二度見してしまう特別なオーラを放つアポロは、数々のスーパースポーツカーをドライブしてきた私でも武者震いするほど。

 ガルウイング式ドアを跳ね上げ、颯爽と乗り込もうとしたが、サイドシルが高くせり上がったせいで、乗り降りは老体にかなりきつく、足がつりそうになりながらも何とかドライビングシートに収まった。

 シートにはリクライニング機能がなく、フォーミュラーカーに備え付けられたような発泡剤で成形された形状で、ホールド性を追求している。

 前後のスライドはせず固定されていて、オーナー専用のマシンといった印象。座面は深く、ドライビングシートからフロントガラスを通した前方視界も低く、まるでレーシングカートのよう。

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横から見ると乗車位置の低さが分かる。視界が低くなるので実際の速度よりもさらに速く感じる

 イグニッションキーを回してスタートボタンを押すとセルモーターが一瞬回り即座にV型8気筒エンジンが目を覚ます。低く唸る排気音は全身に響き渡る重厚感で、機械的な音は、クルマというよりマシンと表現したいもの。

 左足でクラッチペダルを踏み、シフトノブを手前に引きミッションを1速に入れる。アポロは市販車では珍しくシーケンシャルトランスミッションを採用している。若干扱いづらいクラッチペダルを探りながら徐々にリリースすると、駆動がリアタイヤに伝わり軽やかに動きだした。

 走りだしてしまえばシーケンシャルシフトは快適だ。クラッチペダルを踏まずシフトアップ&ダウンの操作ができる。今回は一般道でのインプレッションということで、トラブルを避けるため、あえてクラッチペダルを使いシフト操作した。

 それでもシフトフィーリングはHパターンとは比較にならないほどクイックで、この部分だけでもレーシング小僧の心が躍る。

 アポロにもドライバーの技量をアシストする電子デバイスは備わっているが、最近のスーパースポーツカーほど優秀ではない。乱暴にアクセルを踏むと派手にホイールスピンすることは長年の経験で容易に想像できる。

 アクセルの応答性やハンドリング、ブレーキフィーリングなど、車両から伝わってくるインフォメーションを確かめ、特性をある程度理解したところでアクセルを踏み込んだ。ギアは2速。するとツインターボエンジンが即座に反応。車体が浮くような刺激的な加速に、恐怖感を誤魔化すように思わず苦笑してしまった。

 アクセルでコントロールしながら3速にシフトアップすると、車両重量の軽さからくる瞬発力に鳥肌が立った。さらに4速へシフトアップ。ツインターボにもかかわらず、エンジン特性は低速からフラットなパワー感で意外に扱いやすい。

 メーターパネル中央に配置されたタコメーターは9000rpmまで刻まれているが、レッドゾーンは示されていない。当然、レブリミット機能はあるが、高回転まで回すエンジンではない。

 ここまでポテンシャルが高いと、それに見合った制動力が必須となる。装着されたブレーキは、AP製の大型キャリパーとスリット入りローターの組み合わせ。ドライバーの踏力でコントロールができるところに安心感がある。

 ブレーキペダルは調整幅があり、コーナーへのアプローチで進入スピードをコントロールするには最高の味付けだ。

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もう映画のワンシーンにしか見えない! しかし現実に夜の環状線を走っているのだ

 アポロの真骨頂は高速走行時のダウンフォースだ。路面に吸い付いたかのように空気の壁を突き進む。直進走行時の安定感はもちろん、コーナーリング中の空力特性は機械的に制御されたフィーリングとは違い地に足が付いた感覚。

 ボディ剛性は高く、微妙な挙動をリアルに感じ取ることができる。ハンドリングはクイックでステアリングの舵に対してタイヤの限界域がわかりやすく、ドライバーの意のままに操作ができる。

 プッシュロッド式のサスペンションは直進状態ではゴツゴツした硬さが少なく、横方向にGがかかるとタイヤの性能を100%引き出す。この足と空力の相乗効果で体感できる抜群のコーナーリング性能は、まさにハイパーカー。

 高速コーナーが連続する名古屋都心環状において、過去にアポロが樹立した市販車最速の称号に異論はない。希少価値という観点からもスーパーカーを凌駕するハイパーな市販車だと実感するインプレッションとなった。

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■APOLLO搭載エンジン解説

アウディ製エンジンを搭載。4163cc、V型8気筒+ツインターボで最高出力は650ps/6000rpm、最大トルク86.7kgm/4500rpmを発生

 創設者がアウディ出身ということもあって、搭載されたのはアウディ製エンジン。4163cc、V型8気筒+ツインターボで最高出力は650ps/6000rpm、最大トルク86,7kgm/4500rpmを発生させる。

 パワーウェイトレシオは1.69。車重を感じさせない加速感は異次元だ。潤滑油系統をドライサンプ式にすることでエンジン搭載位置はフォーミュラマシン並みに低く、前後バランスもよく高い旋回性能を持つ。

 長年、凌ぎを削ったモータースポーツで培ったエアロダイナミクスを駆使したボディデザインを武器に公表最高速360km/hを誇る。

●GUMPERT APOLLO 主要諸元
・全長×全幅×全高:4460×1998×1114mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:1100kg(乾燥重量)
・エンジン形式:V型8気筒ツインターボ
・総排気量:4163cc
・最高出力:650ps/6000rpm
・最大トルク:86.7kgm/4500rpm
・ミッション:6速シーケンシャル
・駆動方式:MR
・サスペンションF/R:ダブルウィッシュボーン式
・ブレーキF/R:ベンチレーテッドディスク
・0-100m加速:3.0秒
・最高速度:360km/h

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