その車種本来の名前より、あだ名(ニックネーム)のほうが有名になったクルマは意外に多い。だが、思わず笑ってしまうあだ名にも負けずに人気を集めたモデルもある。今回はそんなクルマたちを紹介しよう!

文/長谷川 敦 写真/スバル、トヨタ、ポルシェ、ボルボ、ホンダ、三菱自動車

■あだ名があるのは特徴があるから

 人間におけるあだ名には、いい面と悪い面の両方がある。名前をもじったあだ名は呼びやすさを優先した結果が多いが、その人の特徴があだ名になると、本人は気に入っていない場合も考えられる。

 それはクルマだって同じ。基本的に商品であるクルマは、イメージダウンにつながるようなあだ名をつけられると困るのは当然だ。

 だが、外見に特徴があったり、あるいはCMなどの影響によって意図せぬあだ名がついてしまったりするクルマもある。

 それでもクルマに魅力があって、最終的に人気車になってしまえばあだ名の印象も変化する。やがてあだ名が定着すれば、それはもうそのクルマの正式名称にも匹敵するといえる。

 次の項からは、ちょっと変わったあだ名をもらってしまったにもかかわらず、人気を集めたクルマを見ていきたい。

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■ファニー、それともユニーク? なあだ名を持ったクルマ4選

初登場から50年以上が経過しているにもかかわらず、現代でも「ダルマセリカ」のあだ名で呼ばれる初代トヨタセリカ。赤い色だと確かにダルマっぽい?

■「ダルマ」トヨタセリカ(初代)

 ダルマは名称の由来となった僧侶の達磨大師が座禅している姿をかたどった置物で、願掛けのお守りとしても有名。その「ダルマ」というあだ名を持っているのがトヨタ セリカの初代モデルだ。

 スポーティなイメージのあるセリカだが、1970年登場の初代モデルは全体的に丸みを帯びたフォルムで、さらにフロントバンパーの形状がダルマの髭にも見えることから、いつしか「ダルマ」や「ダルマセリカ」などと呼ばれるようになった。

 クルマの志向とは異なり、あまり速くなさそうなあだ名をもらいながら、初代セリカは好調なセールスを記録している。

■「水中メガネ」ホンダZ(初代)

 こちらもまたクルマらしからぬあだ名で、その名を賜る名誉(?)にあずかったのがホンダの初代Z。1970年にホンダがリリースした軽自動車。同社のN360をベースにしたスペシャルティカーで、ベースモデルよりスポーティな内容で登場した。

 そんなZの外観上の特徴はリアウィンドウにあり、窓枠となるゴムが一般的なクルマより太めだった。このリアウィンドウが水中メガネを連想させることから、そのものズバリのあだ名がついてしまった。

■「電気カミソリ」 三菱デリカD:5(現行型)

 ロングセラーのミニバン、三菱 デリカD:5がビッグマイナーチェンジを行ったのが2019年。同社が掲げる「ダイナミックシールド」をイメージさせる大胆なフェイスリフトが話題を呼んだ。

 圧巻なのは多数の穴が設けられたフロントグリルで、その形状から一部では「電気カミソリみたい」との声も出るほど。

 しかし、この「電気カミソリ」は蔑称ではなく、多くの人が好意的に受け止めたことはマイナーチェンジ後の受注が多かったことで証明された。

■「鬼」 トヨタ6代目クラウン

 ちょっと怖いあだ名があるのがトヨタ クラウンの6代目モデル。1979年にデビューした6代目は、当時の流行でもあった直線基調のデザインでまとめられ、先代に比べると厳つい風貌になった。

 そんな威圧感のある顔つきから「鬼クラウン」とも呼ばれるようになり、このあだ名が定着してしまった。

 鬼と呼ぶほどの怖さは感じられない気もするが、こんなあだ名がついたからにはそう思う人も多かったのだろう。

■動物系のあだ名2選

「てんとう虫」のあだ名がおなじみのスバル360。記録的ヒットになったクルマであり、昭和30~40年代の日本では、どこでも走っていたという印象がある

■「てんとう虫」 スバル360

 1958年から1970年まで生産され、40万台近い販売台数を記録したのがスバルの軽自動車、360。世界的大衆車のVWタイプ1(ビートル)に範をとったスタイルには、本家のビートル(カブト虫)に対して「てんとう虫」のあだ名がついた。

 ちなみにビートルのほうも本来の正式名称ではなく、フォルムからついたビートルがやがて正式名称に格上げされたという経緯がある。

■「トポリーノ」 フィアット500

 イタリアのフィアット 500といえばファニーな丸いボディフォルムが連想されるが、実は、これは2代目以降のイメージ。1936年に販売が開始された初代は、2代目とはかなり異なる姿をしていた。

 そのあだ名が「トポリーノ(ハツカネズミ)」。もちろん、理由はその見た目から。スタイルの基本は時代を反映しているものの、どこかかわいらしいフォルムがハツカネズミと呼ばれたのは納得できる。

 なお、イタリアではミッキーマウスのことも「トポリーノ」と呼んでいる。

■あだ名があるのは市販車だけじゃない! レースカーの変わったあだ名

 レーシングカーにもあだ名がつけられることがあるが、「稲妻」や「駿馬」など、いかにも速そうなイメージを感じさせるあだ名が多い。

 しかし、なかにはちょっと変わったあだ名もあり、しかもそのあだ名を持つクルマのレース成績がよかったりするから面白い。

 最後はそんなレーシングカーのあだ名を紹介する。

■「空飛ぶレンガ」 ボルボ240ターボ

 1985年の国際ツーリングカー耐久レースに投入され、富士スピードウェイで行われたインターTECで見事ワン・ツーフィニッシュを飾ったのがスウェーデンのボルボ 240ターボ。

 このクルマは、セダンモデルとしてもかなり角ばったフォルムをしていて、地元欧州でも「Flying Brick」(空飛ぶレンガ)と呼ばれていた。

 日本では「走る弁当箱」とも揶揄されたが、そんなあだ名をモノともしない快速ぶりでファンに強い印象を残している。

■「モビーディック」 ポルシェ935ターボ78

 ポルシェが自社の911シリーズをベースに作り上げたレースカーが935シリーズ。935は世界各国のレースで優秀な成績をあげているが、1978年型は「モビーディック(白鯨)」というあだ名でも知られている。

 ル・マン24時間レースが行われるサルテサーキットには長いストレートがあり、そこでの安定性とスピードを高めるために採用された超ロングテールの風貌が、小説「白鯨」に登場する白いマッコウクジラに似ていることからそう呼ばれるようになった。

■「ピンクピッグ」 ポルシェ917/20

 ポルシェにはユニークなあだ名を持つモデルが多いが、こちらの「ピンクピッグ」はその際たるもの。1970年代初期の耐久レースに向けてポルシェが開発した917/20は、当時の空力思想に基づいた“ずんぐり型”のフォルムが特徴だった。

 やがてそのフォルムから「雄豚ベルタ」と呼ばれるようになり、これに悪ノリしたポルシェは1971年のル・マン24時間レースに全身をピンクで塗り、さらに豚肉の部位を示す文字と破線を書き込んだカラーの917/20を出場させた。

 このインパクトは凄まじく、すぐに「ポルシェ 917/20=ピンクピッグ」のニックネームが全世界に浸透した。

 今回はユニークなあだ名を持つクルマを紹介したが、こういったクルマはほかにもたくさんある。

 そうしたクルマたちはまたの機会に紹介したい。

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