全長6m未満という大胆なフォルムにトルコのムードを乗せて上陸した電気バス「カルサン e-JEST」。どうしても比較対象となる「日野ポンチョ」よりも小柄という特徴を生かした走りはどうなのか? モータージャーナリストの近田茂が試乗してその詳細をレポートする。
(記事の内容は、2024年3月現在のものです)
執筆/近田 茂、写真/バスマガジン編集部
取材協力/アルテック
※2024年3月発売《バスマガジンvol.124》より
■扱いの優しさと穏やかな乗り味の優等生
改めて試乗車を目前にすると、まずはこれまでの国産モデルにはない独自のサイズ感が印象深い。試乗車は最初に輸入された販促展示用車両であり、今後正規導入される日本専用車とは装備面でいくつか異なってやって来るという。
車内の掴まり棒の色や座席、細部仕上げも日本市場のニーズに合わせて熟成される模様。もっとも大きな変更点は、乗降ドアが1枚のアウタースライド式が採用されることだ。
初試乗の起点となったのは今後のメンテナンスを委託されたJRバス関東。大型観光バスがズラリと整列する端っこに置かれたKARSAN製e-JESTの車格は、なんとも可愛いらしい。大型バス比較で全長はざっと半分の5900mmでしかない。
コミュニティバスとして普及している日野ポンチョのショートボディと比べても約400mm短く、全高は300mm低い2800mm。ホイールベースも375mm短い3750mmだ。ただ全幅はポンチョやマイクロバスと同レベル(諸元値は40mmワイドな2120mm)である。
ロング&ワイドボディを使用したトヨタ・ハイエースワゴン(バスとして使用されることもあるが別格のコンパクトさ)程ではないが、やはりコンパクトな仕上がりだ。それでいて低いフラットフロアと、最大で2245mmの室内高を稼ぎ出すデザインが秀逸だ。
車体周囲を一周しつつじっくりと眺めてみたが、コミュニティバス需要をターゲットに導入されただけあって、住宅街に溶け込む車格感が新鮮。特にリヤのオーバーハングが950mmしかない短い点も見逃せない。
しかも車体後端左右の角は丸みを持たせて絞り込まれたデザインを採用。狭い住宅街での車両同士のすれ違いや住宅の塀際を右左折する時など、壁際に寄せたあとに大きな転舵が必要となるシーンでテールの蹴り出し(衝突)がほとんどない安心感はとても大きい。
■バスの運行を研究し尽くした操作性と走行感覚が秀逸
PILOT社製の運転席はフルアジャスタブルのハイバックシートで、アームレストもある。プロの職場に相応しい上質な仕上がりだ。φ430mmのステアリングホイールも革巻きタイプでスポーティカーのそれを握るような感覚。少し重めのしっかりした操舵フィーリングも好感触だ。
エアコンほか、ほとんどすべての制御系は運転席左前方に位置する大型ディスプレイで集中コントロールできる。画面を見ながらモニタータッチで扱う方式。もちろんドライバーがグローブを着用する場合も考慮して、ダイヤル式コントローラーも装備されている。
カードキーを入れてイグニッションスイッチをONにし、あとはDボタンをプッシュすれば普通に走り出せる。ちなみにサイドブレーキは電気式で、扱いは乗用車的なスイッチ操作だ。
クリープはないが、ストロークの大きなアクセルペダルは、微妙なタッチを反映することができ、微速前進から乗客に優しい穏やかな発進加速操作ができる。
実はスロットルコントロールには、レスポンスの強さを2段階に制御可能だが、通常モードでもドライバーの意志を込めて扱いやすく、加速度が自由自在になるのが良い。
回生ブレーキの強さも2段階から選べるが、弱い方にセットしてスロットルの戻し及びフットブレーキの踏力と停止直前にブレーキ力を抜く操作をすると、実に穏やかでスムーズな走りを発揮する。
加速力は充分なレベルにあり、これまでの走行実績から推定すると航続距離もカタログ値以上を記録しそう。そんな基本機能に加えてバスに求められる優しい走りを実践できる仕上がりが魅力的であった。
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