3月中旬、東北道にある上下5カ所と圏央道の1カ所、あわせて6カ所のサービスエリア(SA)/パーキングエリア(PA)を、ネクセリア東日本(施設の管理をするNEXCO東日本の関連会社)の担当者と一緒に訪れ、現地の管理担当の方にお話をうかがう機会を得た。
東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら近年、SA/PAのリニューアルが各地で進み、真新しい施設が続々とオープンしている。それをきっかけにした店舗や商品ラインナップの充実・強化も図られている。今回の「高速道路最前線」では、そうしたSA/PAの変化を紹介したい。
東北道を浦和ICから東北方面へ向かう下り線で、2番目の休憩施設が羽生PAである。もう少し走れば利根川をわたって群馬県という場所で、窓から田園風景が広がり始めるあたりにある。
この記事の画像を見る(10枚)高速道路型ショッピングセンター
羽生PAの商業施設は、「Pasar(パサール)羽生」という愛称を持つ。
パサールは、NEXCO東日本のSA/PAの中でもフラッグシップと位置づける施設に名付ける愛称で、京葉道路の幕張PA(上下)、常磐道の守谷SA(上下)、関越道の三芳PA(上り)、東北道の蓮田SA(上り)とこの羽生PA(下り)の7カ所に、その名称がつけられている。
パサール羽生の外観(筆者撮影)SAとPAの区別は、その規模感だけではつきにくくなっているが、三芳PA(上り)やここ羽生PA(下り)は、PAなのに飲食や売店の規模が大きく、SAに引けを取らない充実ぶりである。NEXCOがうたうのは、「高速道路型ショッピングセンター」だ。
羽生PA(下り)のリニューアルは2009年とかなり前になるが、傾斜した屋根が印象的なデザイン性の高い外観に、和をイメージした空間を組み合わせており、広々とした気持ちよさがある。
入口の前には「ずんだ茶寮cafe」というスイーツ店舗があり、よく目立っている。
羽生PA(下り)に入るずんだ茶寮cafe(筆者撮影)仙台の銘菓「萩の月」のメーカーとして知られる菓匠三全の「ずんだ(枝豆をつぶした餡)」スイーツ専門店だ。羽生PAには“東北への入口”という位置づけがあり、仙台銘菓の店舗がここにあるのも、それに合わせた展開との説明であった。
ここでは、新商品である期間限定の「ふわふわずんだスープ」を試食。ずんだ味のスープをふわふわの冷たい泡が覆い、仙台麩とパセリをトッピングした、ちょっと不思議な食感の飲み物であった。
フードコートには、「ゴーゴーカレー」やロイヤルのちゃんぽん店チェーンである「神様ちゃんぽん」など、他のSA/PAやショッピングモールでよく見る店舗のほか、うどんが生活に根づいている埼玉県らしく、地元の小麦を使ったうどん店なども入り、選択肢は多い。
羽生PA(下り)のフードコートに入る飲食店舗(筆者撮影)施設内で、「サービスエリアで3万円使いきるまで帰れません」というポスターを目にした。これは、パサール7カ所が共同で、YouTuberの「デカキン Dekakin」さんとコラボした動画企画のものだ。
後日、YouTubeを覗いてみると、彼とスタッフの3人でパサールをまわりながら、次々とグルメと買い物を楽しむ様子を見ることができた。フォロワーが多いYouTuberを使ってPRする戦略が、こうしたSA/PAでも行われていることに、改めて集客への期待の大きさを感じた。
「ドラマチックエリア」の1つ、佐野SA
続いて訪れたのが、利根川と渡良瀬川をわたり、栃木県に入って最初に登場する休憩施設である佐野SAである。
佐野SA(下り)の外観(筆者撮影)ちなみに東北道は、岩槻ICを過ぎたあたりから佐野SAの少し手前の佐野藤岡ICまでが、最高時速120kmで走行できる区間となっている。それに呼応するかのように、佐野SAあたりから関東平野が途切れ、高速道路の両側に山が迫ってくる。
佐野SA(下り)は2022年7月にリニューアルオープンして、間もなく2年を迎えようという真新しい施設である。NEXCO東日本では、管内20カ所あまりの休憩施設を「ドラマチックエリア」と銘打ち、地域性を取り入れながら旅の楽しみを高めるコンセプトの店舗づくりを行っており、この佐野SAもそうした施設の1つだ。
佐野といえば、佐野ラーメンである。当然、佐野SAにも佐野ラーメンを提供する店舗があり、平日にもかかわらず昼時には券売機に並ぶ長い行列ができていた。
佐野SA(下り)の 佐野ラーメンに並ぶ利用者の列(筆者撮影)ICで降りて佐野ラーメンの名店を探してもいいが、そこまでのこだわりはなくても佐野ラーメンを食べたい人には、SAの店舗は重宝する。SAの店舗は基本的に定休日がないし、営業時間も長い。市中の店舗だとせっかく探し当てても、定休日だったり昼の営業が終わっていたり駐車場がいっぱいで入れなかったりするので、SAの店舗は人気が高い。
ヒアリングしたところによれば、上下線ともに佐野ラーメンの売り上げは相当に大きいということだった。
グッズが売られる「佐藤の会」とは?
SA“佐野ラーメン推し”は、「ラーメンそのもの」にとどまらない。物販のコーナーに移動すると、佐野ラーメン煎餅、佐野ラーメンケーキ、佐野ラーメン風味ポテト、ベビースター佐野らーめん味……と、関連するさまざまな商品が目立つところに置かれている。
中でもベビースターラーメンは、佐野SAのリニューアル1周年を記念したもので、昨年夏から佐野SAの上下線のみで期間限定販売中とのことである。
佐野SAで先行販売されている佐野ラーメン煎餅(筆者撮影)佐野ラーメンをモチーフにした佐野市のブランドキャラクター「さのまる」の人気も衰えないようで、さのまる関連商品も相当数が販売されていた。聞けば、さのまるそのものも、ときおり週末に登場するそうである。
また、こんな商品も見つけた。「佐藤の会」の関連商品である。日本人の名字のツートップは鈴木と佐藤だが、佐藤の由来は、「佐野の藤原」であるとも言われており、地元に「佐藤の会」が結成され、さまざまな活動をしているのだ。
現在、放送されているNHKの大河ドラマ「光る君へ」では、登場人物の多くが藤原姓で視聴者が混乱するという話をよく聞く。
平安中期に権力をふるった藤原氏は、あまりに一族が増えたため、一族を区別するために、出身地やゆかりの地の地名と「藤」の字を組み合わせて、新たな名字を作ったとされている。「伊勢の藤原」は伊藤、「近江の藤原」は近藤など、現在「藤」がつく名字には、そうした由来があると言われる(諸説あり)。
こちらは佐野SA(下り)のテイクアウトコーナー。いもフライや黒から揚げもある(筆者撮影)佐野SAには、その「佐藤の会」のグッズまで売られていたのだ。「佐」一字だけのキーホルダーやピンバッジもあり、筆者は佐藤ではないが「佐滝」なので、勝手に自分用に販売されていると解釈して、思わずどちらも買ってしまった。
地域の「情報発信拠点」としての役割
佐野SAを丁寧に観察して確信したのは、ここは佐野市にとっての「情報発信拠点になっている」ということである。佐野市にはJRや東武鉄道の駅もあるが、幹線上の駅ではないため、利用者はそれほど多くなく、駅の規模も小さい。
リニューアルを通じて佐野SAと佐野市との連携が深まり、佐野SAが市のPRに大きな役割を担うようになったのだろう。
物販コーナーの一角には、地域の工芸品である「天明鋳物(てんみょういもの)」や「間々田(ままだ)紐」「みかも焼」の展示もある。
佐野SA(下り) に展示される地域の伝統工芸品(筆者撮影)また、全国のSA/PAに設置されているハイウェイスタンプも、SAのリニューアルに合わせて、市のシティプロモーションに取り組む高校生プロジェクトメンバーがデザインした印影を新たに採用している。
SA/PAの役割が、「ちょっと立ち寄ってすぐに通過する施設」から「じっくり楽しむ地域の拠点」へと大きく変化したことを実感した体験であった。
なお、佐野SAは上り線の方も現在リニューアル工事が始まっており、完成した暁には、またユニークな情報発信の基地になるだろう。同じ日に観察した羽生SA(上り)、菖蒲PA、蓮田SA(上り)については、後編でお伝えする。
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