ベテランドライバーが日常的に行っている運転時のクセや習慣のなかには、現代にはほぼ不必要といえるもの、やってはいけない、やると恥ずかしいものが数多く存在する。そこで、アップデートしておきたい旧態依然とした運転法を検証する。

文/藤井順一、写真/写真AC

■高性能車の儀式だったが…「エンジン停止前の空ぶかし」

構造がシンプルでエンジン回転に対しダイレクトなパワー感が魅力ともいわれるキャブレター搭載車。機械的な動作のため、インジェクションのように気温や湿度の変化に対応するにはドライバーに”作法”を求めた

 昭和や平成初期に免許を取得した世代にとって、クルマやバイクは先輩や友人など個人間で“お下がり”のように譲り受ける文化があった。

 例に漏れず、筆者も初のマイカーである5代目マツダ・ファミリア 1.5リッター EGI ターボを先輩から10万円程で譲り受けた。

 納車の際、前オーナーである先輩から「このクルマはターボ車だから、エンジンを止める前にいったん空ぶかしするように」とのアドバイスを受けた。

 なんだか特別なクルマのようでカッコいいぞと思い、以来エンジン停止の前にはその言いつけを守り“ブォン”とやっていた。その行為に意味がない、と知るのはずっと後のことだった……。

 そもそも、なぜ “空ぶかし”が必要なのか。これは、いわゆるキャブレター方式のクルマが主流だった時代の名残りといえる。

 キャブレターは、インジェクションのように燃料が混ざった空気(混合気)を最適な比率で混合する調整ができないため、プラグが濡れたり、燃焼のススが付着して着火しにくくなる、いわゆる「カブる」状態となり、エンジンがかかりづらくなる。

 これを避けるため、エンジン停止の直前にアクセルをいったん踏み込み、シリンダー内に残った混合気を燃やすことで、次回の始動をしやすくすることが目的だった。

 だが、インジェクションを搭載したクルマは、エンジン停止直後に燃料がカットされるため、混合気がシリンダー内に残るようなことがないうえ、始動時にもコンピュータが空燃比を最適化してくれる。

つまり空ぶかしはインジェクション搭載車には意味がない作法なのだ。

 筆者初のマイカーだったファミリアも実はマツダが言うところのインジェクションであるEGI搭載車だったため、先輩から伝承された空ぶかしは結果として意味のないものだったのだ……。

 ゴルフ場に行くと、エンジン停止前の儀式として身体に沁みついたベテランゴルファーが、いまだ習慣的に行ってしまう様子を見ると、何だか昔を思い出して甘酸っぱい気持ちになる。

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■小刻みなハンドル操作は時代遅れのテクニック!?「ソーイング」

 カーブを曲がる際、ステアリングを小刻みに操作するテクニックは、ノコギリを引く動作になぞらえて「ソーイング」と呼ばれる。

 急ハンドルを回避しながら、ハンドルの舵角を継ぎ足す操作は、雪道のような滑りやすい路面からドリフト走行にまで有効といわれていた。

 だが、これも現代の進化したクルマには必ずしも必要なものではなくなっている。その理由はタイヤのグリップ性能の劇的な進化だ。

 現在のタイヤは、グリップ性能が大幅に底上げされ限界性能が高いうえ、限界を超えても挙動はマイルド。

 さらに、クルマ側に搭載される横滑り防止などの各種安全デバイスも介在すれば、一般道を普通に走行する時にはできなくても支障がない技術となった。

 むしろ、ソーイングなんてやっていると、平成・令和世代の人からは「落ち着きないなぁ」、「うっとうしい」なんて思われてしまうかもしれない……。

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■エンジンはしっかり温めなくても大丈夫「暖気運転」

冬場などにエンジン始動時の混合気を調整し、アイドリングを安定させるためキャブレター車に搭載されていたチョーク。キャブレター車には暖気運転が必要だったのだ

 クルマ好きのドライバーには2種類いる。暖気運転する人としない人だ。

 筆者は断然、後者。エンジンをかけたら、アイドリングが安定するまでじっと待つ、なんて余裕はない。エンジンをかけたら“秒”で目的地へ出発。これに眉をひそめる方もいるかもしれない。

 暖気運転はそもそもエンジン始動直後、潤滑油であるエンジンオイルが温まることでエンジン各部に行き渡り、発電機であるオルタネーターや付随する補器類が安定して作動するのを待ってから走行することで、エンジンへの負担を低減し、本来の性能を発揮するためのものだ。

 だが、コンピュータにより電子制御されたインジェクションを搭載する現代のクルマは冷間時でもすぐに適切な空燃比の制御が可能なうえ、エンジンオイルの性能も進化し、補器類なども以前に比べて電子制御で細かく管理されている。

 つまり、以前のような暖気運転は不要なのだ。一部自動車メーカーも暖気運転は不要と公式でアナウンスしているほどなのだ。

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■環境汚染に貢献するだけ「ターボタイマー」

 暖気運転と同様に思い起こされるものに「ターボタイマー」がある。

筆者も前述した初マイカーであるファミリアにアフターパーツであるターボタイマーを装着していた。当時、ターボ車では必須とされていたためだ。

 若い世代はその存在すら知らない人も多いかもしれないが、ターボタイマーとは、高速走行などでターボ車のタービンに高負荷がかかった際、すぐにエンジンを停止すると、タービンの熱が放熱できず焼き付いてしまう。それを防ぐため、キーを抜いてもタイマーで一定時間エンジンを動かしてタービンを冷却する装置だ。

 キーを抜いてもアイドリングを続ける愛車がすこぶる格好良く感じたものだが、ターボのブースト圧を上げているチューニングカーならいざ知らず、ノーマル車両の普段使いでタービンを焼き付かせるほどの猛者は少なかった。

 さらにいえば、暖機運転しかり、不要なアイドリングは環境面からもお薦めできる行為ではない。

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■AT車にとっては迷惑運転でしかない!? 「エンジンブレーキ」

 先日、SNSの投稿を見て驚愕した。「前走車がブレーキランプを踏まずに減速する迷惑運転をしていたので通報した」という内容だ。

 たしかに、AT車のドライバーにとってはブレーキを踏まずに減速されることは恐怖なのかもしれないが……。

 マニュアル車の場合、アクセルをあおるブリッピングでギアとエンジン回転数を合わせながらシフトダウンし、エンジンブレーキを併用して停車するというドライバーも多い。

 極端な場合、停止寸前までブレーキペダルを踏まずに減速することができ、それがマニュアル車の醍醐味であると考えている人も多いはずだ。

 ただし、エンジンブレーキはブレーキランプが点灯しないため、後続車には減速していることが気づかれにくい、このため追突事故の要因にもなりえる危険な運転だ、というわけである。

 ということで、AT車が普及した現代に、MT車のシフトダウンによる信号停止は見直すべきマナーなのかもしれない。

 ただ前述の「エンブレだけで止まる前走車マジ迷惑」というAT車ドライバーも、前走車のブレーキランプのみをあてにせず、十分な車間距離を空けて運転すれば、通報に値する危険な運転とはならないこともたしか。

 かたくなに信号でブレーキを踏まないマニュアル車のドライバーも周りのドライバーへの気遣いがあれば、後続車への注意喚起のためにフットブレーキを併用する心遣いがあってしかるべきなのかもしれない。

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■時代遅れの習慣的テクニックは現代のクルマに不要なのか

国内の新車販売の99%がAT車という日本。もはやクラッチペダルを知らないドライバーも少なくないだろう。実際、AT限定免許の普及により、クラッチという用語自体を知らない人も増えているとか

 エンジンの回転合わせのブリッピング、ヒールアンドトゥ、カウンターステア。マニュアル車がAT車となり、クラッチペダルが消え、ブレーキにABSは必須装着され、イッキに踏んでもロックせずに最小限で停止できるようになった。

 クルマの進化とともに、以前は当然のように行われていたクルマの運転技術や習慣は過去のものとなり、ドライバーがクルマにサポートしてもらう領域はますます広がるばかりだ。

 半面、ドライバーが運転のなかで得る技術や習慣が失われてしまうことを、何となくさびしく感じてしまうのは自分だけではないだろう。

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