ナニワの海コンお姉さん・ゆでさんの今回の思い出話は、ゆでさんが絶体絶命のトラブルに見舞われたお話です。

 といっても、ゆでさんはいつも何らかのトラブルに遭遇しているので、またいつもの「アレ」なんですが、今回はトラックの故障らしい。当時乗務していたトラックは、御年11歳になろうとするUDヘッド君。さてさて、どうなることやら。

文/海コンドライバー・ゆでさん、写真/ゆでさん・「フルロード」編集部
*2014年12月発行トラックマガジン「フルロード」第15号より

海コンお姉さんの夢と現実

ゆでの名前はこの「UD」が由来。懐かしいな~、このトラック

 トラックを運転したい! そう憧れてから30年経った。最初は、とにもかくにもトラックに乗れれば、仕事はどんなキツイ内容でも構わなかった。30年前の私は、トラックという乗り物にキラキラした憧れがあった。どんなトラックでも、それを運転している人がとてもカッコよく見えた。

 私もあんなカッコイイ運転手になりたい! そんな希望を叶えた現在、私はトレーラの運転手をしている。ただ、「カッコイイ」というワードからは外れているんですけどね……。

 そう、30年前の私は「トラックに乗れば自分もカッコよくなる」、そう信じていた。でも実際は……、カッコイイ話どころかカッコ悪い話のほうが多い。なかなかバックで入れなくて通勤ラッシュの道路を封鎖して、周囲の温かい白い目を頂いたり、イライラしたホーンの喝采を受けたり。

 それでもくじけずに今までやってこられたのは、自分の神経の図太さと、「好き」って気持ちからなんだと思います。好きという思いがあるから、時にハプニングが起きてもパニックにならず冷静沈着に、……放心状態になったりするんですが(汗)。

異常発生! 異常発生!

始業点検もしているけど、年には勝てないのかな~、トラックも人間も……

 以前、ラジエターの水がエンジンに回り込む故障がありました。私のヘッドは11才くらいで、走行距離120万km超えの、いつどうなってもおかしくない古い古いトラックです。

 ある日、ラジエターの異常を知らせる警告音がピーピー鳴り始めました。中を確認したら「いつの間に?」ってくらい水が減っていて、ペットボトルに入れて持っていたお水を補充するもまったく足りず、近くのトイレに水を汲みに行ってさらに補充。何往復もしてやっとFullにしました。

 久しぶりにヘッドの下に潜りこんで、恐る恐る水漏れの箇所を探したけれど見つからない。といいますのも、タンクに水を補充する時にペットボトルをひっくり返してしまって、アチコチから水が滴っている状態でして……。

 それで、少し走ったところでまた潜りこんで見てみたら、1カ所から水蒸気が出ていました。水蒸気が煙に見えてきたりして「燃えるんじゃないの?」と恐怖を味わいながら仕事をしていました。

 途中で何回も確認して、ヒヤヒヤしながら車庫に戻り、再度キャビンを上げて点検。私一人じゃ頼りないので、車庫に居た先輩二人をつかまえて、経緯を話してさらに点検。でも異常がわかりません。……こういう故障って、なんで見てもらってる時は正常なんだろう?

 で、「少し様子を見ましょう」ってことで次の日の朝も確認。ヘッドの下を覗いても漏れている形跡がないので、とりあえず配達に出ました。

 配達先の前の道路は大型車通行禁止なので、いつも通行許可証を受け取ってから進入します。そのために待ち合わせをする場所があるんですが、そこに4t車が停まっていたので、後ろにつけてエンジンを停止。

 4t車が出て行ったので、前に詰めようとエンジンをかけたら……、マフラーから白煙なのか水蒸気なのか、モクモクとすごい勢いで出てきたんですね。「どうしたん?」とヘッドと会話(「独り言」ともいう)。

 ここでエンジンを切ってラジエターの水を確認したら、車庫を出る前にはタップリ入っていた水がない。もう遅いかなと思いつつ、持って来ていた水を足してしばらく放心……。明らかに水は足りないし。配車係のN氏が出社する頃を見計らって電話すると、「エンジンに水が回って動かへん可能性もあるなぁ。チョットどうするか考えてから電話するわ」と言われた。

深刻な水不足に見舞われて……

 その間に配達先のお兄さんが許可証を持ってきたので、とりあえず受け取る。事情を説明しようと思ったら、ソソクサと自転車で行ってしまった。N氏からも電話がこないし、仕方なくエンジンをかけてみたら、……やっぱりかからない(汗)。急いでN氏に電話! 電話のやり取りの間に何度かチャレンジしていると、かかりました。誰かに消防車を呼ばれるんじゃないかと思うほどの白煙付きで(涙)。

 それを伝えたにも関わらず、「とりあえずデバンしてきて」と……。「その間に対策を考えとく」と。先にも書いたように、大型車両通行禁止の道路なわけで、それなりに狭いわけで、もしも配達先で動かなくなったら……。もう考えるのよそう。

 とりあえず配達先でお水を頂き、願いを込めて補給。その間にまた下に潜り込んではみたものの、やっぱり漏れていません。ってことでエンジンに水が回っていることが決定しました。

 デバンが終わって、エンジンONしたら、一発でかかりました(もれなく白煙付きで!)。それでも、これでとりあえずはこの場所から脱出できるので、エンストしないよう緊張しながら広い道路に出て、再度N氏に電話。あ~でもない、こ~でもないと話した後、とりあえず高速を使ってそのまま車庫に戻ることになりました。

 スピード控えめでマフラーから出る排気に気を付けつつ、窓を開けてエンジン音を聞きつつ、いろんなとこに神経を張っているというのに、目の前に縦1m・横60cmくらいの型枠みたいな板が飛んできた(涙)。「ワ~ッ!!」と叫んでも、隣にクルマが走ってるから避けらない。

 「バンッ!!」って音とともにぶつかったんですが、うまいことバンパー辺りに貼りついちゃってね。それを落としたら後ろのクルマに被害が出るんじゃないかと心配になるし、水温や排気も気になるし。なんかもう、メンタル崩壊……。

 しばらく走ると渋滞があって、徐々にスピードが落ちてくると、さっきの板がずれて、「ガガガーッ」って音がしている。てことで、さらに減速して、落として踏んだ。次は釘がささってパンクでもするんじゃないかと泣きそうだったけど、なんとか無事に車庫に戻って、別のヘッドに乗り換えることができました。

「トラックが好き!」ゆでの一途な恋心

どんなことがあっても、めげず、くじけず、今日も走ります

 「トラックに乗れればどんなにキツイ仕事でもいい!」と言っていた私ですが、精神的にキツイとこまでは考えていませんでした。肉体的にも精神的にもキツイ仕事ではありますが、「トラックが好き!」という一途な思いで、これからも頑張りますかね。

 でも、トラックの運転手には、言葉にする必要のない連帯感があると思う。例えば、深夜の寂しい山道で、対向にトラックのライトが見えたら少しホッとしたりしませんか?「おっ! この人も頑張ってるんだな」って、見知らぬ運転手さんに元気をもらったり。

 かなり昔、4t車に乗っていた頃、たしか富山向けで北陸道の石川あたりを深夜に走っていた時のこと。眠くて眠くてどうしようもなく、危ない運転をしていたんだと思います。後ろから来たトラックに激しくホーンを鳴らされました。

 「危ないなぁ!」と怒って鳴らしたのか、起こそうとして鳴らしてくれたのかはわかりませんが、そのホーンで眠気から覚めたのは確かです。

 最近、そうした連帯感が薄くなってきているのかな、と思うことがある。

 たくさん意地を張って、たくさん負けん気を出して、時には悔しい思いをして、それでも誰かに励ましてもらったり、優しい声をかけてもらったりして、私はくじけずに今までやってこられたんだと思う。

 運転手の仕事は「個人プレー」ですが、実は多くの仲間達が支えあっている。そう考える運転手が少なくなっているのかな……。

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