海外旅行、それもヨーロッパ方面へ旅行するとなった時、おそらくほとんどの人は、その最初の訪問地としてルーマニアを選ぶことはないはずだ。しかしちゃんとバスは存在し、交通は健全に営まれている。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(ティミショアラを走るバスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■“定番外”な旅行先
ヨーロッパ旅行をするなら、まず英国やフランス、ドイツにスイスといった辺りが定番で、その次にイタリアやスペインなどの南欧、あるいは北欧や中欧といったところを選ぶはずだ。
そこをわざわざ「ルーマニア」へ旅行に出掛けようと思うのは、おそらくそれなりに旅慣れた人や、世界中を主要な国を行き尽くして、次はどこへ行こうかなと迷っている人くらいではないだろうか。
ルーマニアも首都ブカレストならばそれなりにメジャーだが、それ以外の都市を挙げてみろと言われても、すぐにパッと思い浮かぶ都市はあるだろうか。
■ルーマニア地方都市の交通事情
旅行先としては定番外と思われるルーマニアに、ティミショアラという都市がある。首都ブカレストから530キロ以上離れており、列車で10時間も掛かるが、ハンガリーやセルビアとの国境に近く、ブダペストからは約250キロと、ブカレストより遥かに近い。
人口は約31万人で、これはルーマニアで第4位だ。それまで社会主義体制が敷かれていた1989年に民主革命が起こり、ルーマニア自由化の象徴となった都市でもある。
そんなティミショアラ市民の足を支えているのが、トラム(路面電車)、バスおよびトロリーバスだ。利用者数が最も多いのは、33キロ/8路線が張り巡らされたトラムであるが、総延長ではトラムを凌ぐ35キロ/7路線(2018年時点)を誇るのがトロリーバスだ。
最初の路線は1942年に開業し、その歴史は80年以上に及び、ルーマニアで最初に建設されたトロリーバスだった。市内中心部をきめ細かくネットしているが、一部は県境を越え、隣の市まで直通する路線もある。
一時はトラムを廃止し、すべてトロリーバスで置換えることも検討されたが、結局トラムは残され、今はほぼ半々で市民生活を支えている。
途中でエネルギー危機による電力不足などもあり、運行が止められたり、運行本数が削減されたり、ということが何度かあったものの、逆に石油燃料が不足となって、1980年代にはトラムと共に路線網が拡大されることになった。
民主化革命の際には、トロリーバスがバリケードに使われたことに加え、当時の車両品質が低かったこともあって車両が不足し、多くの路線が運休を余儀なくされた。
1990年代以降になると、ようやく安定した運行が可能となり、現在は革命以前に運行されていた全ての路線が再開されている。
■エネルギーや経済的な危機
しかし2000年代中ごろになると、再び車両不足に陥ることになる。1990年代中頃から、西欧で使われていた中古車を多く譲り受けて使っていたが、これらが寿命を迎えて置き換えが必要となった。
しかも中古車は車種・形式ともバラバラだったため、メンテナンスをすることも大変だった。一部の路線は、ディーゼルエンジン車で代替することになり、メルセデス・ベンツの東欧市場向け車種(低床ではない廉価仕様)であるコネクトが大量投入され、車両不足に悩むトロリーバスを次々と置き換えた。
2008年からイリスブス/シュコダ24Trが50両導入され、これが現行車両として現在も使われている。なおイリスブスは、1999年に伊イヴェコと仏ルノーバスが合併して誕生したメーカーだが、2013年にイリスブスの名前は消え、現在は再びイヴェコブスへと変わっている。
この新型車両には補助ディーゼルエンジンが搭載されているので、工事などによる無架線地帯や、停電が発生した場合にも動かすことが可能となっている。
■インフラ整備が喫緊の課題か?
ただ実際に走っているところを見ていると、2本の架線が歪んで接触しそうな区間があったりして、よく短絡事故が起きないものだとヒヤヒヤする。
ルーマニアは全体として、西欧・中欧諸国と比較してインフラがかなり貧弱で、町の中心部以外は架線のみならず道路もガタガタだ。
貧弱なインフラの影響もあるのか、車両の状態はあまり良いとは言えず、現時点で41両のみが稼働し、9両はすでに運用から退いている。新型車両25両の入札を行うという話もあるので、近い将来には一部が置き換わっているかもしれない。
ただ、新車よりも先に、まずはインフラの整備が先ではないか?そう思わずにはいられないほど、深刻な状況と思えた。
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