未来の乗り物として注目されている交通システムとして自動運転がある。今や全国各地で実証実験を行われている。本格的な運用には至ってないが、完全な無人運転であるレベル4を目指して日夜取り組みが行われている。三重県四日市市で再び実証開始ということで早速乗車してきたのでレポートする。

文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■「ニワミチよっかいち」事業の一環

近鉄四日市駅

 三重県四日市市にある近鉄四日市駅を目指す。駅前では東海地方で初めて事業化決定された「中心市街地再開発プロジェクト」におけるバスターミナル事業『バスタ四日市』の大規模な工事が行われ、交差点上には円形のデッキ約4分の3ほどが姿を見せ、景色の変化をみせている。

告知の効果か乗車率は上々

 これを横に見てガードをくぐった駅の西側へと向かう。こちらは以前からの風景が残っており、バスロータリーとタクシー乗り場が並ぶ姿は駅東側と比べると懐かしさを感じるほどだ。

東京ではおなじみの電動キックボード試乗コーナーも

 そして駅からしばらく歩くと、今回の実証実験の乗り場が見えてきた。市民公園向かい側にあるユマニテクプラザという建物の前に特設された乗り場に着くと、早速2台のバスを見ることができた。これが実証実験の始まった四日市市の自動運転バスである。

予約なしでは乗車できない便も

 これは昨年に引き続き行われている実証実験で、今回はスマート・シティー計画「ニワミチよっかいち」という名のもと実施されている。「ニワミチよっかいち」というのは近鉄四日市駅とJR四日市駅の間にある中央通りで、全長約1.6km幅員70mの空間全体をデザインし、整備方針や交通結節点(バスターミナル)のデザイン等を定め、関係者が1つになってまちづくりを進める指針となるものだ。

ラッピングもマスコットも気合が入る!

 事業自体は2021年度からスタートし、2026年度には完了という流れである。その1つになっているのが「中心市街地のスマート化に向けた取り組み」であり、それが今回の自動運転バスの実証実験「Smart Mobility in YOKKAICHI 」へとつながっている。

営業運転を考えるなら市街地では乗車定員が問題になる

 前回は近鉄四日市駅からJR四日市駅を結ぶルートで、その様子は記事として紹介したところだが、今回はルートに変更があり近鉄四日市駅の西側を巡回するルートとなった。またバスの車体も前面ラッピングされ、四日市市のゆるキャラである「こにゅうどうくん」のかわいいイラストが描かれている。

■レベル2ながらも前回よりスピードアップ?

自動運転と無人運転とは違うことの認識は必要

 筆者も早速、乗車手続きを済ませてバスに乗車する。乗車の流れは前回と同様で、ニワミチよっかいちの予約サイトにアクセスし、希望する日時を選んで予約すると2次元コードが発行される。それを乗車前に乗務員に見せることで乗車手続きが完了とするという流れだ。

人が必要な自動運転では運転士不足問題は解決しない

 今回は平日の一部座席と土日は事前予約制となっているが、ある程度の告知効果があったのか、いくつかの便が満席だった。また当日の空きがあると思って予約せずやってきた人もいたが、乗り場は案内等でばたばたとしている様子だった。

 予定の時刻よりやや遅れて出発した。今回も1名の乗務員が同乗する形であり、いわゆるレベル2での運転となる。独特の動きをしながらも道路上は軽やかに走行していく。前回乗車した時よりも速度は出ているような印象だ。

■マッピングデータをトレースする

コミュニティバス代替の切り札にはなるか?

 ほどなくして最初の停留所が近くなってきた。停留所としては一番西にあたる「文化会館南(1)」のバス停である。駅から離れているので乗車する人はいないようだ。ここで時間調整をするということなので、自動運転バスについての説明を聞いた。乗務員の位置にはやや大きめのモニターがあり、自動運転バスの経路を表す白いラインが描かれている。

三重交通も運行を担当する

 ここに地図データなどを落とし込んでより詳細なマップを作成し、これを元にバスが走行する。よってライン上に何もなければレベル4のような完全無人運転というのが可能だが、実際の道路状況は異なるので、その際は手動に切り替えて乗務員がコントローラーを操作する必要があるのだという。

 また前回は経路上の信号機の動きと連動して赤になるタイミングでスムーズに停車するなどの技術が取り入れられていたが、ある程度の実験は行えたということで、今回はそのシステムは盛り込まれていないということだった。

■側道バス停だと乗客も安心?

営業運転にはせめてポンチョクラスのバスは必要?

 再び出発すると今度は交差点先をUターンし東に向けて走行する。車線変更もあるので周りの交通状況をよく確認して走行していく。やはり他の車両との速度差があるので、かなり遠くからでも十分に確認して走っているという感じだった。中央通りは本線の両側に側道があるので、後続車両を気にせずに停車・出発ができるのでその点は安心できた。

 筆者は3番目のバス停である「市民公園」で下車した。商業施設や文化施設にも近く、利便性も高いが今回の臨時バス停のほかにもツアーバスなどのバス停も多く設置されているようで、なかなか賑やかである。バスを見送るともう1台走行しているバスに乗車するためにバス停を1つ戻ることにした。

 そして待ち時間を利用して、自動運転バスの運行と同時に始まったデジタルポイントラリーに参加した。これは中央通り周辺のスポットを巡り、そこで得たポイントでクーポンやグッズ等と交換することができるものだ。各所にスポットはあるので、思ったよりも効率よくポイントを取ることができた。

■あれもこれも障害物認定!

自動運転には工事が苦手?

 次のバスがやってきた。1乗車目はピンクのバスであったが、今度は青である。同じようにスマホに表示したQRコードで乗車手続きを済ませて乗り込む。車内はほぼ満席だ。走り出したバスは順調に走行し、先ほど降車した「市民公園」バス停に停車した。ここで半分ほどが降車し、次の「都ホテル」バス停でも降車があったので車内は乗務員と私だけになった。周囲の交通状況を見ていると、やはり駅に近いこともあり車や人の行き来も多い。そんな間を縫うように、するすると走っている感じだ。

道路には直接関係ないビル工事も障害物認定?

 最初に乗車したバスでは乗務員が手動に切り替えて操作するということであったが、実際の操作を見る機会があった。まずは路上駐車の車である。前述したが、自動運転バスの経路は道路データに描かれたラインに沿って走行する。もちろん車体の大きさもデータとして入っているが、そこにかかるように他の車両があると、衝突を回避するため停車する。

 もちろんセンサーやカメラにより自動停車するのだが、それらを避けるための走行データがないため出発することができず次のシーケンスに移れない、つまり動かなくなるのだ。初日の運行ではそのような状態になり、システムを再起動して対応したのだという。

マッピングデータ上に他の車両があると停止したまま?

 また経路上には道路や建物の工事現場もあるが、それも厄介な「障害物」だという。どこでいつ工事が行われているのかというデータはもちろん入っていない。当然だが、工事の最中は安全のため道路にまたがるようにカラーコーンや誘導路が設置られている。ことがあると走行ルートにかかり動かなくなってしまうらしい。

障害物で停車したら手動で動かしてシーケンスを再開するしかない

 ビルの建設現場では資材の落下防止や騒音対策として幌が建物を覆っているが、これも自動運転バスにはビルが道路側に移動してきたと認識してしまうようだ。よってそのような場面でも手動で操作しなければならず、あれもこれも障害物認定という話を聞いていると、すでに整備された市街地に自動運転のシステムを組み込むのは、なかなかハードルが高いと思えた。

■前途多難ながらも…

多くの自動運転バスには都市ごと再設計が必要?

 最初のバス停まで戻る際にも、一度ロータリーに入ってから道路へ右折で出る場所があるのだが、手前の歩道を歩く人や行き交え車でなかなか右折することができないということもあった。ここは係員がいたので、その合図で出るということもあったのだが、これが普通の自動車ならもう少し良いタイミングで道路に入ることも出来たので、もどかしい時間だった。

 再び最初のバス停である「ユマニテクプラザ」へと戻ってきた。降車後にアンケートページへと案内するQRコード入りのカードを受け取り、今回の乗車体験は終了となった。帰りに近鉄四日市駅にある観光協会で、デジタルポイントラリーで貯めたポイントをクリアファイルに引き換え帰宅の途に着いた。

人や他の交通の動きはわからないのが最も厄介だ

 今回は四日市市でおこなわれている自動運転バス実証実験の様子をレポートした。実証実験の期間が11月27日までと短期間であるが、思ったよりも多くの乗客があるように思えたので体験してみたい、どんなものか乗ってみたいという人が増えているのはよろこばしい。

 乗車してみて感じたことは、自動運転を前提に設計されたこれから新しくできる街やコミュニティであれば問題ないようだが、既存の市街地で自動運転を組み込むにはハードルが高く、多くの都市部で営業運転するには前途多難なように感じた。

前途多難だが普及に期待が寄せられる自動運転バス

 ただ同乗した他の乗客の反応は概ね好印象のようで、それはバスという公共交通機関ではなく、1つの街中アトラクションを楽しむがごとく乗車しているような感じがした。確かに実現に向けて課題は多いのかも知れないが、期待になるべく早く応えるためにも、他の交通とうまく共存できるまちづくりが進むことに期待したい。

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