これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、三菱がモータースポーツ活動を通じて得たノウハウを注入した、コルトラリーアート バージョンRを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/三菱

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■コルトラリーアートの能力をバージョンアップしたホットハッチ

 2023年6月三菱は、OEM供給を受けるかたちではあるが、名車「コルト」を欧州市場へ再投入した。残念ながら新型コルトは欧州市場で販売されるモデルで、現時点でも日本での導入については言及されていない。

 日本でコルトといえば、ダイムラー・クライスラーと共同開発し、2002年11月に発売されたコンパクトハッチバックである。登場時に掲げられた「まじめまじめまじめコルト」というキャッチフレーズには、不祥事によって失墜した企業イメージと消費者の信頼回復に努めていた三菱の想いが込められており、コルトが企業の存続を担う急先鋒であることを強く印象付けた。

 そして、三菱ブランドの新世代コンパクトカーとして登場したコルトは、競合がひしめくコンパクトカークラスで確たる地位を確立し、登場から2年後には、新開発の4G15型1.5L直4ターボエンジンを搭載した高性能バージョン「ラリーアート」が追加される。パワフルなエンジンの搭載だけでなく、ボディ剛性や足まわりの設定も専用とし、同時に内外装もスポーティな走りのイメージが表現されていた。

 そんなコルトラリーアートのスポーツ性を、さらに進化させた「ホットハッチ」と呼べるモデルが登場する。それが今回クローズアップする「コルトラリーアート バージョンR」だ。

基本的なフォルムはコルトを踏襲しているが、グリル一体型フロントバンパー、ボンネットフードなどのオリジナルアイテムが装着されている

 コルトラリーアート バージョンRは、スポーツドライビングを楽しみたいユーザーに手頃な価格で高性能コンパクトスポーツを提供することを念頭に置いて作られたモデルで、三菱が長年に渡って続けてきたモータースポーツ活動を通じて得たノウハウが随所に注ぎ込まれている。

 エンジンのさらなる高性能化やボディの高剛性化をはじめ、サスペンションのスポーツチューニングを施し、16インチハイグリップタイヤを採用するなど、運動性能を高める改良を随所に施すことで、コルトラリーアートで実現していたスポーツ性をバージョンアップしていた。

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■専用にチューニングによってハイレベルな走行性能を実現

 外観は大きな開口部を設けたグリル一体型フロントバンパーや、ボンネットフードを採用。フォグランプと左右分割式のフロントエアダムと相まってスポーティかつダイナミックな表情を作り上げている。

 リアバンパーは下部をディフューザー形状とし、バンパーから連続した造形のガーニッシュがあしらわれ、一体感を強調するとともにローフォルムが演出されている。さらに前後にオーバーフェンダー、ボディサイドには整流効果を狙った大型サイドエアダムを採用ことで低くワイドなフォルムとしていたのも大きな特徴だ。

リア方向からのフォルムは、デフューザー形状をあしらったリアバンパー、オーバーフェンダーなどのアイテムによって迫力のあるスポーティなスタイリングにまとめられている

 走りの要となるパワートレインは、4G15型1.5LMIVECターボエンジンをコルトラリーアートから継承しながら排気系に改良を施すことで、5速MT車では最高出力154PS、最大トルク210N・mというコンパクトカークラスの範疇を超えるパフォーマンスを発揮した。

 トランスミッションには従来のINVECS-Ⅲ 6速スポーツモード付CVTを採用したほか、卓越した動力性能に見合った強度を有するゲトラグ社製5速MTを設定。CVTではイージードライブとスポーツ走行を両立し、5速MTではラリーアートバージョンRが持つ本来のパフォーマンスを存分に味わえるといったように、幅広いユーザーニーズに対応していた。

 ボディと足まわりの強化にも抜かりはない。ボディ各部には従来の約1.5 倍にもおよぶスポット溶接を増し打ちしたほか、Dピラー周辺にも補強を施してボディの捻り剛性は約30%向上。必要最小限の重量増で最大限に効果を発揮する補強を実施したことに加え、前後サスペンションの取り付け部周辺も重点的に補強したことも相まって、専用にチューニングしたサスペンションの能力が十分に引き出されスポーティな操縦安定性を実現している。

 ブレーキはフロントに15インチディスクブレーキとリヤにも14インチディスクブレーキを採用。これは欧州で販売されていたコルトのターボモデルと同様のもので、卓越したパフォーマンスをドライバーが自在にコントロールするために採用された。

 スポーツドライビングに十分な制動力を発揮できるようブレーキを強化しながら、低μ路での制動時や高速走行からの急制動時に車輪のロックを防止するブレーキアシスト付きABSや、乗員数や積載量など重量配分に応じて後輪ブレーキの制動力を制御して最適な制動力配分を行うEBD 機能も採用した。

 さらに5速MT車には、車体の不安定な挙動を各種センサーが感知すると、制動力やエンジン出力を制御して、車体を安定した発進を可能にするASC(アクティブ・スタビリティ・コントロール)も備えていた。

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■ベース車と同じく“まじめまじめまじめ”に作られたホットハッチ

 2007年5月には、レカロ製フルバケットシートを標準装備し、専用のブラックインパネやランサーエボリューションと同一の本革巻き丸型シフトノブ(5速MT車)、専用バージョンアップRデカールおよびスカッフプレートなどのアイテムを装備した特別仕様車「RECAROエディション」を発売。同年11月にはマイナーチェンジを実施し、5速MT車のエンジンは最高出力が163psへと引き上げられた。

 さらに翌年の5月には、「バージョンRスペシャル」を発売。4つのドア開口部に連続シーム溶接を採用することでボディ剛性を大幅に高め、内外装に専用装備を施すことで走りにこだわりを持つユーザーを大いに満足させた。

 特に連続シーム溶接の効果は絶大で、従来のボディと比べて曲げ剛性で約10%の向上を実現し、車両のピッチング(縦揺れ)とロール(横揺れ)が抑えられてタイヤの接地性が高められ、ドライバーの意図に忠実な操舵応答性とトラクション性能を実現。

 バージョンRスペシャルは限定300台でリリースされ、好評のうちに販売は終了。しかし再販を望むユーザーは多く、2010年2月にはパージョンRスペシャルを限定200台で発売する。

 専用のシルバー塗装を施した12本スポークデザインの16インチアルミホイールを採用して足もとの印象を引き締めたり、ボディカラーにチタニウムグレーメタリックを新設定するなど、再販にあたって特別な装いを与えてスペシャル感をアップさせている。

運転席まわりはブラックを基調としながら、レッドメタリックのセンターサイドパネルやエアアウトレットリングをあしらってスポーティなドライビング空間を演出している

 スポーツカーが衰退し、「ホットハッチ」という言葉すら死語となった現代では、コンパクトカーながらスポーティイメージが強調されたコルトラリーアート バージョンRのように尖ったクルマは、市場で受け入れられにくいかもしれない。

 しかし、クルマが持つ高いポテンシャルを使い切り、クルマを思い通りに操る楽しさを味わうには恰好のモデルだった。スポーツ性に特化したコルトの派生モデルだが、その中身はベース車と同様に“まじめまじめまじめ”に作られていたのは間違いない。

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