モリゾウさん自身がオーナーを務めるレーシングチーム、ルーキーレーシング。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を考えるうえで、ルーキーレーシングの存在感が増してきているのはなぜなのか? モリゾウさんが教えてくれた「新しいクルマづくりの方程式」とは?
※本稿は2024年10月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部、トヨタ
初出:『ベストカー』2024年11月26日号
■「新しいクルマづくりの方程式」とは?
「ルーキーレーシングの活動で何をしようとしているのか?」。不躾とは思いながらスーパー耐久シリーズ第5戦鈴鹿の現場でモリゾウさんに聞いてみた。
「社長の時に『もっといいクルマをつくろうよ』とずっと言い続けてきました。最初は社員からどんなクルマですか? と聞かれましたが、それには答えず、『自分たち一人ひとりにとってのいいクルマ、そしてお客様にとってのいいクルマとは何かを考えてください』と答えました。
時間はかかりましたが、社員がお客様を第一に考え、『もっといいクルマをつくりたい』と思ってくれるようになり、商品も変わってきました。その一方で、会長になったいま、私の役割は少し違うところにあるのではないか? と考えるようになりました。
いまトヨタ自動車は『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』を掲げています。モータースポーツ活動で得た知見を量販車に生かしていくことで、大きな成果をあげていると思います。そして、原価を下げ量販車をつくるのが得意なトヨタのビジネスモデルとなっています。
しかし、サプライチェーンや人材育成といったことを考えると、それがベストとは言えないかもしれないと思うようになりました。原価は上がっても、そのぶん販価を上げてお客様に選んでもらえるようなクルマづくりもできないと、トヨタ自動車はコモディティメーカーになってしまいます」
モリゾウさんはよどみなく話してくれたが、こちらは少し面食らった。明確なビジョンがあることがわかったからだ。そこにルーキーレーシングはどうつながるのだろうか?
ルーキーレーシングは約50人の所帯でトヨタ自動車からの出向者も多いが、15人ほどがルーキーレーシング採用のプロパー社員で、新しく社員を採用しようとしている。
ルーキーレーシングはオーナーのモリゾウさんが、私財を投げうってガレージを作り、チームを運営している。それを踏まえてルーキーレーシングを作り、活動している意味をこんなふうに語ってくれた。
「今はモリゾウがいるからいいのですが、いつかいなくなるのです。私がいなくなった時でも『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』ができるようにしたいのです。
大企業の優秀な人ほど、すべて正解にしたい、上司から褒められたい、となるものです。だから仕事が『ごっこ』になってしまうのです。ルーキーレーシングはモータースポーツの現場で手と頭を動かすプロ集団を目指しています。メンバーの今の仕事が認められて、価値あるものに変えていけたらと思っています。
そのためにはひとりひとりが実力を出せる環境を作ってあげることが重要で、私はチームには細かいことは言いません。ただ人としてダメなことは叱りますし、いいことがあれば褒めます。口出しよりも笑顔を見せて、笑顔を引き出すほうが、人を育てるには絶対にいいのです。
モリゾウがいなくなっても、ルーキーレーシングのメンバーがこれまで培い、今後培っていくワザや経験は必ずクルマづくりに生きるはずです」
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■ルーキーレーシングとGRは切磋琢磨
なるほどと思いつつ、ひとつの疑問が湧いた。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を進めるのであれば、すでにガズー・レーシング・カンパニーがある。ガズー・レーシング・カンパニーではだめなのだろうか?
「当然、そう思われるかもしれません。GRはGRヤリスやGRカローラが成功して勢いが出てきました。そのいっぽうでかつてマイノリティだったGRにあった、ハングリーさを持つ人材ばかりではないようです。
カンパニーが大きくなるにつれ、『GRは勝ち馬だからそれに乗ろう』といった人たちが増えてきているように思います。だから、GRはルーキーレーシングというマイノリティだけどクルマづくりに正直な連中と仕事をすることで、切磋琢磨していく関係になればいいと思います」
モータースポーツの現場ではGRとルーキーレーシングの人材が一緒になって活動している。その効果について高橋智也ガズー・レーシング・カンパニー・プレジデントは、
「これまではトヨタの決められた仕事をやっていればよかったという感じでしたが、一緒に仕事をやるようになってからは、進んで仕事をするというか、自分で考えて仕事をやるようになったと思います。モリゾウさんがすべてを話さず、現場に考えさせているということも大きいと思います」と率直に語っている。
話を聞きながら、モリゾウさんはスタートアップのリーダーになっているのかもしれないと思い始めた。さらに言うなら自身も挑戦し続けるという意味では、豊田喜一郎がトヨタ自動車工業を作り、自動車づくりを始めた創業時になぞらえているのかもしれない。
「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりを目指すなかでモリゾウとルーキーレーシングとガズーとでいい方程式が生まれてくるといいと思います。
これはモリゾウが作る方程式ではなく、みんなが協力して生まれるものです。あえて言うならばひとり1台のクルマをつくることです。トヨタは自動車メーカーですから、いくら方程式ができても、生まれてくる商品でしか答えにならないのです」
モリゾウさんが話してくれたことは、従来のトヨタではできない、そしてモリゾウさんにしかできない新しい価値を持つクルマづくりへの挑戦といえるだろう。
トヨタがハースF1チームと技術提携することが発表されたが、これも商品と人材育成につながるからであり、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりが、一気に加速していきそうだ。
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【番外コラム】モリゾウさんがオーナーを務める「ルーキーレーシング」
もともとはレーシングドライバーの片岡龍也氏がジェントルマンや若手ドライバーの育成を目的に立ち上げたT’sコンセプトというチームが母体。
2018年豊田大輔氏が将来のマスタードライバーを目指し、修業のために参加することになり、小倉クラッチをスポンサーに迎え、チーム名もT’sコンセプト小倉クラッチとなった。
チームを見に来たモリゾウさんも意気投合し2019年「ROOKIE Racing」と改名し、2020年シーズンにGR86とGRスープラの2台でスーパー耐久シリーズに参戦し、本格始動した。
モリゾウさんはトヨタ自動車の社長ではなく、プライベートチームのオーナー兼ドライバーとして現場に立つことで、日本のレース業界の課題を見ることになった。
チームスタッフの職場環境やメカニックやエンジニアの重要性、さらにはスポンサーなどの問題である。モリゾウさんはチームのために私財を投げうち、ガレージやチーム体制を強化。
さらにモータースポーツ活動を持続可能なものにすべく、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と「世界で戦えるクルマ屋集団を作る」という2つのビジョンを掲げ、スーパー耐久、スーパーGT、スーパーフォーミュラ、そしてラリーでの挑戦を続けている。
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