アジアでは比較的ポピュラーな寝台バスだが、日本ではバスを寝台にして運行することはできない。しかし深夜移動のニーズからフルフラットシートバスの導入が求められている。国土交通省はこれらについて安全性のガイドラインを示した。今後、車両の開発により寝台バスに似たような高速バスが運行されるかもしれない。

文:古川智規(バスマガジン編集部)
写真:東出真(すべての写真はイメージで本文とは直接関係ありません。)

■厳密には寝台ではない

安全対策が考慮されている

 国土交通省によると、ガイドラインを公表した経緯は次の通りだ。国内の高速バスにおいて、深夜移動の乗客のニーズへの対応を目的として、フルフラットの状態までリクライニングした座席を備える大型バスの導入が求められている。

 このため車両安全対策検討会における審議を踏まえ、フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関する要件をまとめたガイドラインを策定した。これにより、フルフラット座席に適した座席ベルトや保護部材等の安全装置を備えたバス車両の開発が促進されることで、ニーズに対応しつつ安全性の向上が図られることが期待される。としている。

 ここで寝台バスとは言っていないところがミソなのだが、あくまでもフルフラットになるシートという枠内での話だ。鉄道の寝台車のように最初からベッドとして寝台を備えるということではなく、シートが180度倒れることで寝台のようになることを想定しているようだ。よってリクライニングの角度が180度のシートととらえる方がイメージが付きやすいかもしれない。

■対象とするバス

ダブルデッカーでもいいのか気になるところ

 専ら乗用の用に供する乗車定員11人以上の自動車であり、かつ、車両総重量が5t以上のもの(要は大型バス)に設置される座席のうち、国際基準(UNR80・「大型乗用車の座席の認可並びにその座席及びその取付装置の強度に係る認可に関する統一規定」)に適合するものであって、フルフラットの位置までリクライニングした状態で走行中に使用する目的で設計された座席を対象とする。

現在の個室が寝台になるのが早いか?

 また、乗員の側面が車両進行方向を向くよう(横向き)に配置された座席は、着座姿勢における安全性が確保ざれず、現行の国際基準においても路線バスのような低速走行する自動車を除いて認められていないことからガイドラインの対象外とした。これはかつての客車の開放B寝台のような鉄道でいう枕木方向に寝るのはダメということだ。鉄道でいうレールの方向に寝る場合に限るという意味である。

■さまざまなケースで試験したらしい

現在のバスでは乗客の座席に寝台は認められていない

 座席の向きやシートベルトの方式については様々な衝突試験を行ったようだ。その結果、前向き座席かつ足が進行方向、転落防止プレート、衝撃吸収材、2点式シートベルトの組み合わせが望ましいとされた。

 シートベルトは3点式の場合、衝突時に首を絞めてしまうのでかえって危険なので、腰部を保持する2点式が望ましいとされた。

■その他の安全対策も必要

フルフラットにできない中でシートが開発されてきた

 そのほかに安全対策としてバス製造メーカーや運行事業者に求められることは、脱出時の動線の確保及びその手順や経路の表示、動線を確保するための乗客手荷物置き場の確保、乗降時や非常時に補助が必要な乗客への事前の利用案内が挙げられてる。

 しかしこれらは現在でも概ね運転士が出発前に確認していることから、座席配列が著しく異なることによる手荷物置き場を確保するための設計や、非常時脱出の際の動線の周知徹底は必要だろう。

夜行で寝台だともっと人気が出そう?

 あくまでもガイドラインなのでバスの形状までは指定されていないので、ハイデッカーやスーパーハイデッカーで客室内に2段ベッドのように配置しても良いのか、あるいは定員を確保するためにダブルデッカー車に配置しても良いか等の課題はある。

■アジアで多く走っているので可能だが…

寝台にはならないが個室は人気だ

 現在はかなり深くリクライニングする「個室」までは実現しているが、むしろ個室のままフルフラットシートにした方が早いのかもしれない。アジアの寝台バスのような3列2段ベッドの形状は日本では無理だろうから、どうしても個室配列と同じ2列になるだろうか。

現在は安い4列にそこそこの3列に高い個室という序列が定着している

 すでにアジアでは多くの形状の寝台バスが走っているので、無理という話ではなさそうだ。インバウンドの勢いで日本国内の宿泊費が高く、ビジネス出張にも支障が出るほどで、かといって寝台列車はいつなくなってもおかしくない状態だ。夜行の長距離フェリーは海洋国家の島国であるにもかかわらず、まったく充実していない。移動で宿泊できる残る希望はバスだけとなってしまった。

 しかし、フルフラットシートバスの誕生よりもそれを動かす人、つまり運転士の方が待ったなしの状況になっているのも事実だ。定員が少ないと台数をそろえなければ満足な輸送はできず、それらの問題をどのようにして解決していくのかにも注目が集まりそうだ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。